本研究は、日本語の評価系とりたて詞の統語と意味・談話のインターフェイスに関する理論的研究である。本年度は、①前年度の成果を学会誌に公表し、②否定極性を持つ日本語のとりたて詞を構成的に分析することを中心に取り組み、③この研究の成果の集大成としての博士論文の執筆を行った。 ②に関しては、否定極性を持つとりたて詞として代表的なものに、シカとwh-モがあるが、両者を比較したところ、両者は統語的・意味的特徴が異なることが明らかになった。加えて、「シカ」タイプとの否定極性表現は、いずれも対比のハと類似した特徴を持つ一方、「wh-モ」タイプの否定極性表現は、形態から明らかなようにモと類似した特徴を持つことを指摘し、両者の否定極性タイプの違いがハとモの対立に還元できることを指摘した。以上の成果は、関西言語学会第41回大会にて発表した。 加えて③に関して、今年度は前年度までの成果の集大成として博士論文を執筆した。博士論文では、日本語の評価系とりたて詞の中には従来否定極性との関連について触れられてこなかった要素(ナドやマデ)に否定極性を仮定すべきものと仮定すべきでないものの2つがあり、両者は区別して扱うべきことを指摘した。また、否定極性を持つこれらのとりたて詞は、共通して対比のハを後接するという統語的特徴を持つことを指摘した。 日本語はとりたて詞が顕著に発達した言語であることが指摘されているが、従来のアプローチでは個別の現象については豊かに記述があったものの、統語的・意味的に体系的・構成的にこれらを切り取ろうとするアプローチには多くの課題を残していた。それに対して本研究は、とりたて詞を肯否という観点から分析することで、区別すべきとりたて詞を明らかにし、それらの特徴を切り出すことに成功している点で、今後とりたて詞を体系的・構成的に分析する足がかりとなることが期待される。
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