平成27年度の研究成果としては、まず「榎本武揚と樺太千島交換条約(一)(二・完)―大久保外交における『釣合フへキ』条約の模索―」『阪大法学』65巻2号、3号の刊行が挙げられる。本論文では、明治六年政変後の国内外の政治情勢を踏まえながら、明治政府が幕末以来のロシアとの国境問題を解消させていく政治過程を、日英露の史料を利用しながら明らかにした。同論文を基礎にした内容については、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターにおいて口頭報告する機会も得た(「榎本武揚と樺太千島交換条約」サハリン樺太史研究会)。 また、ペルーとの国際問題に発展したマリア・ルス号事件の仲裁裁判についても、駐日ロシア公使ストルーヴェの報告書を交えて検討し学会発表した(「明治政府とマリア・ルス号事件―ロシア皇帝による仲裁判決―」来日ロシア人研究会)。本研究では樺太問題との関係性に着目し、日本の主張を認めたロシア皇帝による判決が、領土問題解消後の日露関係に好影響をもたらしたことなどを明らかにした。その成果は、論文としても刊行することが決まっている。 また、一ヵ月間モスクワに滞在しロシア連邦国立文書館(ГАРФ)を中心に史料調査を実施した。同史料館では、ロシア外交に関する貴重な一次史料を収集することが出来た。また、レーニン図書館においては、日本の図書館に所蔵されていないロシア側の先行研究について重要なものを複数把握することが出来た。
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