2016年度は、明治初期日露関係に関する主に次の二点について研究を進めた。 第一に、留守政府外務卿の副島種臣による日露領土交渉について検討した。具体的には、ロシア国立海軍文書館(РГАВМФ)の史料を利用しながら日本側史料が不足する現状を補填し、副島時代の日露交渉が榎本武揚による樺太千島交換条約締結への道筋を作ったことを明らかにした。 第二に、榎本が担当したマリア・ルス号事件の仲裁裁判について検討した。本研究では、日本側のロシアへの仲裁依頼が樺太問題をめぐる領土交渉を有利に進めるための手段であったことや、日本の主張を認めたロシア皇帝の判決が、領土問題解消後の日露関係に好影響をもたらしたことなどを明らかにした。その成果は、書籍所収の論文として刊行した(「明治政府とマリア・ルス号事件―ロシア皇帝による仲裁判決―」中村喜和、長縄光男、沢田和彦、ポダルコ・ピョートル編『異郷に生きるⅥ―来日ロシア人の足跡―』成文社、2016)。 以上の成果は、2016年11月に提出した博士論文「明治新政府と日露関係―樺太千島交換条約とその時代―」を構成する重要な部分となった。また、文献調査としては、北海道大学附属図書館などでロシア語書籍を調査した。海外においては、サハリン州国立歴史文書館(ГИАСО)で史料調査した。同文書館では、樺太千島交換条約に関する新たな文書を収集することができた。今後の研究に活かしたい。
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