研究目的: ナラ枯れが生じるブナ科樹種であるコナラを利用するキクイムシ群集の構造、長期動態、資源利用様式を解明する。 研究方法: 前年度に引き続き、二次林内のコナラ(生存木7個体)を調査対象木として、樹幹観察用足場を組み立て、地際から地上高10mまでの樹幹において、年間通じて約10日に1度の定期調査により、キクイムシ類全種による各穿孔の形成時期・位置を記録し、各穿孔に取り付けた個別トラップを用いて各穿孔からの脱出成虫を捕獲した。 研究成果: 捕獲されたキクイムシ類の全捕獲個体(総個体数9275)において95%の種同定が終了し、ヨシブエナガキクイムシ(個体数5628)とカシノナガキクイムシ(個体数3163)が確認された。ヨシブエナガキクイムシは、カシノナガキクイムシよりも有意に高い樹幹部位を利用していたが、前者は地際から地上高10 mまで、後者は地際から地上高8 mまで利用する傾向があった。また、2種間で一個体当たりの利用可能な材積に、有意な差はなかったことから、キクイムシ群集は、寄主木が枯損後2年経過する間に、樹幹資源を地際から上部10 mまで、偏りなく利用すると考えられた。さらに、2種は枯損木と生存木を両方利用していたが、一穿孔当りの脱出成虫数は、2種共に寄主木が生存状態の方が、枯損状態よりも有意に多かった。従って、2種共にキクイムシ群集の遷移初期種と思われる。なお、生存木において、ヨシブエナガキクイムシは、カシノナガキクイムシよりも約2ヶ月早い時期に穿孔を開始する傾向があったことから、コナラの枯損過程に、カシノナガキクイムシだけでなくヨシブエナガキクイムシも寄与している可能性が示唆される。
|