研究課題/領域番号 |
14J01383
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
飯盛 遊 山口大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | イオン交換クロマトグラフィー / タンパク質の固定化 / PEG化タンパク質 / 分子拡散係数 / 細孔内拡散係数 |
研究実績の概要 |
PEG化タンパク質は優れた医薬品であるが、生成反応の制御は困難であり修飾数、修飾位置、活性の異なる異性体の混合物として製品化されているのが現状である。そのため反応を制御する手法の確立が求められている。そこで本研究ではタンパク質の精密分離に用いられるイオン交換クロマト (IEC) 担体の分子認識能に着目し、(1) イオン交換担体上へのタンパク質の固定化より反応修飾部位を制御するクロマト固相反応操作の確立と (2) 生成物の連続的分離プロセスの構築を目的とした。 本年度は (1) の目的を達成するために固相反応時の固液界面におけるタンパク質分子の配向状態を明らかにした。具体的にはタンパク質構造データバンクの3次元構造情報にもとづいた表面電荷計算とpH勾配クロマトにより、固相反応時にリゾチーム表面のある特定の領域に存在するリジン残基のみ(アミノ酸配列における13, 97, 116番目のリジン残基のみ)PEG修飾を受けることをつきとめた。 また反応の最適化に向け固相反応収率に及ぼす操作変数の同定を行った。具体的には活性化PEG濃度、担体粒子径、担体骨格構造などの影響を検討した。その結果収率向上のためにはPEGの細孔内拡散に加え、タンパク質の吸着密度を考慮する必要があることが明らかになった。 さらに (2) の目的を達成するため、試料の物質移動特性を定量化した。具体的にはカラム性能を評価する理論段相当高さの流速依存性からPEGおよびモデルPEG化タンパク質の細孔内拡散係数Dsを算出した。これは通常クロマトグラフィーでは細孔内拡散が分離性能を支配するためである。一方で巨大分子の分離に適している貫通孔型モノリスクロマトでも分離条件の最適化実験を実施した。具体的には溶媒pH、塩濃度勾配、圧力損失などを考慮し生成物を効率的に分離する手法を開発した。この成果は国際学術誌に一編投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の課題は (1) IEC固液界面における配向状態の確認、(2) 固相反応収率に及ぼす因子の同定、(3) 試料の物質移動特性の定量化の3つである。 課題 (1) については未検討のリガンドが数種類存在する。しかし課題 (2) についてはタンパク質の吸着密度および負荷量の影響の検討を残すのみとなった。また課題 (3) については予定していたPEGおよびモデルPEG化タンパク質の分子拡散係数および細孔内拡散係数を測定し終え、かなり順調に推移している。このため全体的には「おおむね順調に進展している」という自己評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
まず両性イオン交換体であるハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー(HAC)担体上でのタンパク質の吸着配向を確認する。なぜならばHAC担体上のカルシウムイオンはタンパク質表面に局在するヒスチジン、システイン、トリプトファンとアフィニティーを持ち、これらが固液界面側へ向くよう吸着配向性が変化すると予想されるためである。 次に破過実験を行い各塩濃度条件における吸着量からタンパク質の分子間距離を算出し、その分子間距離と固相反応収率の関係を評価する。またサンプル負荷量が収率に与える影響も検討する。 最後に非吸着条件、吸着条件における細孔内拡散係数Dsおよび分配係数Kとピーク幅Wの関係を解明するため、塩濃度直線勾配溶出実験から種々のKにおけるDsを算出する。この結果を機構モデルに組み込むことによりPEG化タンパク質の分離挙動を正確に予測できると期待される。
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