研究課題/領域番号 |
14J01420
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
竹内 亮 奈良大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 古代寺院 / 仏教 / 知識 / 木簡 / 文字瓦 |
研究実績の概要 |
国内外の古代寺院とその造営集団に関する資料収集、および研究成果の公表を行った。国内については、各地の古代寺院遺跡を実地踏査し、寺院の立地環境、遺物分布・遺構遺存の現状、周辺の官衙・集落・墳墓・交通路などとの位置関係を現地で確認するとともに、文字資料を含む出土遺物の観察を行った。また、古代寺院遺跡の発掘調査担当者との意見交換を行い、発掘成果の解釈や今後の発掘調査方針に関する当方の見解を各担当者に伝えた。 国内調査で得られた資料や従来からの知見を基に、地方寺院造営に際して地域の社会集団が担った役割について考察し、福井県美浜町で開催された歴史フォーラムにおいて「古代の地方寺院と社会集団」と題する口頭発表を行い、年度末に刊行された記録集に発表と討論の記録を掲載した。また、奈良県香芝市二上山博物館において開催された古代寺院史研究会の定例研究会において「文献からみた片岡の古代寺院」と題する報告を行い、大和の片岡地域に所在する片岡王寺跡、尼寺廃寺などの造営主体についての考察を行った。 海外については、中国河南・山東省、中国四川省、およびカンボジアへ計3回の出張調査を行い、龍門石窟の造像銘文調査などを行った。 研究成果としては、科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術図書)の交付を受け(課題番号15HP5078)、自身初の単著論文集である『日本古代の寺院と社会』を2月に刊行した。本書では書き下ろし新稿として、第二部第三章「古代地域社会における知識結集」、第二部第四章「知識結集の源流」の2編を収録した。前者では、地方で行われた造寺などの仏教事業の主体である知識結集の特質について考察、後者では、古代日本への知識結集の伝来経路について考察した。また、かつて執筆した論文計7編についても、本研究を通じて得られた最新の知見に基づいて大幅に加筆と修正を施した上で本書に収めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
古代寺院の現地調査、特に海外での調査が順調に進展し、碑文の新たな釈読など確実な研究成果が上がった。本学の角谷常子教授を研究代表者とする科学研究費補助金基盤研究(A)「文字文化からみた東アジア社会の比較研究」(課題番号26244042)との共同により準備が順調に進み、迅速な調査の実施につながった。 研究成果の公表については、研究成果公開促進費(学術図書)の交付を受け、当初の研究計画よりも一年早く単著の出版を実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
国内各地の古代地方寺院に関する出土文字資料・文献史料の収集と分析を行う。 出土文字資料については、寺院造営への知識の関与を示すと考えられる篦書文字瓦が出土した古代寺院遺跡を主な調査対象とする。今年度は、大野寺土塔と山崎院の調査を実施する。両寺院の文字瓦はそれぞれの発掘担当機関で整理が進んでおり、国庫補助事業によって基礎的研究データの集積がほぼ完了しつつある。また、両機関の発掘担当者とも古代寺院史研究会などを通じて情報交換を行っており、当方の調査へ協力していただける旨、内諾を得ている。今年度の調査では、両寺院の文字瓦に共通して認められる特徴、特に人名箆書が造瓦の過程で切断されている事例を中心に実物調査を実施し、そこから箆書の意義を探りたい。なお、こうした出土文字資料の実物検討を中心とする調査を、他の寺院遺跡についても可能な限り実施する。 文献史料については、対象寺院単独の史料だけでなく、当該寺院を含む一定範囲の地域で造寺に関わる人間集団がどのように形成されているかという視点から、国・郡レベルの範囲での関係史料収集を行う。こうして収集した出土文字資料と文献史料を総合的に検討し、例えば特定の法名が複数資料に現れているかといった点から、造寺知識集団の実態を復原する。そのため、国内各地の資料所蔵機関への調査出張を行い、かつ対象となる寺院遺跡の現地踏査を実施する。また、研究課題と関連する学会・研究会報告や学術シンポジウム等にも可能な限り参加し、聴講や討論を通じて知見を広める。 また、アジア各地(中国・韓国・東南アジア諸国)における造寺・造仏集団の実地調査を行う。今年度は7・8月に中国を訪問し、山東省・河南省の石窟寺院や仏像の実地調査を行うほか、他のアジア各国における寺院遺跡・仏像の実物調査も可能な限り実施する。
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