研究課題
本研究は、Ataxin-2のターゲットmRNA認識メカニズムと、タンパク質発現を促進する細胞内メカニズムを詳細に解析することによって、Ataxin-2の生理的機能の全容を明らかにすることを目的とする。本年度は、PAR-CLIP法を用いてAtaxin-2の結合RNAを抽出し、次世代シーケンスによって網羅的に解析を行った。その結果、Ataxin-2に直接結合するRNAが確認され、その主たる標的は、mRNAの3’UTR領域内にあることが判明した。次に、Ataxin-2が特定のモチーフを認識して結合しているのかどうかを解析した結果、Ataxin-2はウリジンに富んだ配列(U-rich element)を認識していることが分かった。Ataxin-2の発現をノックダウンまたは過剰にした後、全遺伝子の発現変化についてマイクロアレイを用いて解析した。その結果、Ataxin-2を抑制すると、標的RNAの発現量は減少し、過剰にすると増加した。よって、Ataxin-2は、標的mRNAの安定性を促進する機能をもつことが明らかになった。最後に、神経変性疾患で認められるPolyQ鎖の異常伸長が、Ataxin-2によるmRNA安定性促進に及ぼす影響を解析した。伸長したPolyQ鎖を含むAtaxin-2発現ベクターを作製し、テザリングアッセイを行ったところ、PolyQ鎖が伸長するほどmRNAを安定化させる能力が低下したことから、PolyQ鎖の異常伸長は、mRNAの安定性を促進する機能を減弱させることが分かった。本年度の研究成果は、神経細胞変性で認められるAtaxin-2のPolyQ鎖の異常伸長が、同定された生理的機能に及ぼす影響を培養細胞レベルで明らかにしたことで、将来的にモデル動物など個体レベルで神経変性メカニズムを解明するための基盤情報を提供できたため大変意義がある。
2: おおむね順調に進展している
本年度では、PAR-CLIP法を用いてAtaxin-2に結合するRNAを高純度に精製し、次世代シーケンサーで解析した。その後、Ataxin-2はmRNA中の安定化を制御する配列を認識することを発見したため、Ataxin-2のノックダウンと過剰発現後の全遺伝子発現変動解析により、Ataxin-2が標的mRNAを安定化に導き、それに対応するタンパク質の合成量を増加させることが分かった。また、神経変性疾患で認められる遺伝子変異がAtaxin-2のRNA安定化機能を低下させることも発見した。これは、神経変性疾患に共通した発症病態の解明や将来的な治療法を確立することに繋がる結果であり、ここまでの一連の発見を一区切りとして論文に発表したため(Yokoshi et al, Mol Cell, 2014)。
Ataxin-2がどのようなメカニズムによってmRNAを安定化しているのか、またPolyQ鎖の伸長が本機能を減弱させることによって、どのように神経細胞の変性を誘導するのかについては未解明である。したがって、現在、マウスの脳組織や神経細胞を用いたCLIPを試みており、今後は、神経細胞特異的なAtaxin2標的mRNAを同定し、mRNAの安定化メカニズムを詳細に明らかにする。そして、異常伸長したPolyQ鎖が神経細胞または脳組織特異的なmRNAに対して、結合量や動態にどのような影響を与えるのか解析する予定である。
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Molecular cell
巻: 55 ページ: 186-198
10.1016/j.molcel.2014.05.022.