研究課題
これまでの精神疾患モデル動物を用いた疾患研究により、行動異常に関連する脳内変化が部分的に同定されてきた。しかし、高度に機能が局在した脳では、局所的な解析で個々の変化を捉えることができても、病態を理解することは難しい。本研究では、脳内変化を全脳から網羅的に捉えて、疾患に関連する行動異常の発現機序を解明することを目的とし、当研究室で構築している三次元全脳イメージング法を用いて、精神疾患モデル動物の脳構造と、神経活動の全脳網羅的解析を進めている。平成26年度は以下の結果を得た。1) 脳構造の全脳解析法の確立高解像度のマウス全脳画像は、数テラバイトものデータ容量になり、既存の解析法では、脳内変化を検出することが困難であった。そこで、独自の画像処理手法を適用し、歯状回に神経脱落を示す既知のモデル(トリメチルスズ投与マウス)を陽性対照として、新規全脳解析法の確立を試みた。その結果、脳内細胞の位置情報を取得することに成功し、さらに、脳を領域別に部位分け、個体間位置合わせを行った後に、各領域の体積、細胞数を比較することにより、脳構造の変化を検出できる新たな解析法の確立に成功した。2) 神経活動の全脳解析法の確立上記の解析法と、最初期遺伝子Arcのプロモーター制御下に蛍光蛋白質dVenusを発現するArc-dVenusマウス(岐阜大医・山口瞬教授より譲受)を用いて、dVenus発現を神経活動の指標とした全脳神経活動の解析法を確立した。さらに、本方法を用いて、精神的ストレスを負荷したマウス、ストレスを与えないコントロールマウスにおける全脳神経活動を解析し、その変化を全脳レベルで明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
疾患モデル動物の全脳解析において最も重要であった、脳構造および神経活動の変化を検出できる新規比較解析法の確立に成功し、精神的ストレスを負荷したマウスにおける神経活動の変化を全脳レベルで明らかにした。これらのことから、全脳解析による精神疾患モデル動物の疾患関連表現型の網羅的解析に向けて、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
今後は、確立した全脳解析法を用いて、統合失調症モデルとして妥当性の高いPACAP遺伝子欠損マウス(当研究室にて作製)などの脳構造および全脳神経活動を解析し、疾患関連表現型の網羅的同定を試みる。また、行動異常を改善もしくは誘発する薬物が神経活動に与える影響について解析し、行動変化と相関する表現型の同定および薬物の効果機序の解明を目指す。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
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