申請者はフェナレニル骨格を基盤とした有機ラジカル集積体を構築することを目的とし、これまで様々な置換基を有するフェナレニル誘導体を合成・単離する中で、置換基のわずかな立体効果および電子効果を利用することでフェナレニルの集積化構造を制御できることを見出した。このようにフェナレニル本来の会合挙動に関する知見は、フェナレニル骨格の集積化構造をコントロールする上で必要不可欠であるといえる。このような観点から、申請者は電子効果の小さいメチル基を有する誘導体を合成し、固体状態および溶液状態における会合モードを明らかにした。トリメチルフェナレニルはいずれの状態においてもσ型の二量体とπ型の二量体の両方を形成しており、二量体間のエネルギー差が非常に小さいことを示唆した。つまり集積化を妨げるかさ高い置換基を用いることなく、フェナレニル誘導体の集積化構造をπ型へと導けることが明らかとなった。 一方、フェナレニルの分解反応を抑制することは、電気材料への応用を考えた際必須であるという観点から、フェナレニル本来の分解反応について検証した。具体的にはフェナレニルの分解過程に存在すると予測されるビフェナレニリデンを実験的に合成・単離し、その反応性を詳細に検証することで分解反応のメカニズムを考察した。合成に成功したビフェナレニリデンはフェナレニルの分解過程で明確に観測されたことから、分解反応のメカニズムを明らかにできたといえる。 以上の成果はJACS2報という形で非常に優れた評価を受けており、フェナレニルを基盤とした集積体の化学を進めるうえで重要な役割を担っていると考えている。
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