本研究では小胞体内で実施されている糖タンパク質のフォールディングがどのように制御されているのか、化学合成によって得た均一な構造のハイマンノース型糖鎖を持つ糖タンパク質プローブを用いて調べた。 採用1年目では糖鎖を3本持ち、正しいタンパク質構造を持つ合成エリスロポエチン(EPO)が、糖タンパク質のフォールディング状態を識別できるUGGTによって不良品として認識されるという予想外の結果を見いだした。そこで本年度はその理由を探るため、構造の似た別の糖タンパク質インターフェロンβを化学合成し、UGGTアッセイをおこなった。その結果UGGTはインターフェロンβをきちんと完成品と認識した。そこでEPOとインターフェロンβの構造や疎水性度の比較をおこなったところ、UGGTの認識にはタンパク質表面の疎水性面が重要であるという結果が得られた。これは、これまでよく分かっていなかったUGGTの基質認識機構を探る上で重要な手がかりになると考えられる。 また、ラットの肝臓から単離した小胞体と合成糖タンパク質を反応させることで、小胞体内のシャペロン群がどのように基質と相互作用しているのかを調べた。合成したEPOを用いてこの小胞体抽出物と反応させた結果、不良品のタグを付けるUGGT、タグが付いた糖タンパク質に相互作用しタンパク質部分を修復するCNX/CRT、そのタグを加水分解するグルコシダーゼIIという3分子がこの順番に沿って順序よく相互作用していることを初めて実証できた。これにより、糖タンパク質のフォールディングをおこなうこのシステムはこれら3分子によって触媒サイクルの様に回っていることが示唆される。これはこのシステムが糖タンパク質の生合成においてメインの役割をしていることを示唆する重要な知見である。今後このサイクルが回るメカニズムを詳細に調べることで、これまで分からなかった糖タンパク質の生合成経路の一端を解明できると考えている。
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