研究実績の概要 |
申請者はこれまで、硫黄架橋環状PdII三核錯体([Pd3(D-pen-N,O,S)3] (1) (D-H2pen = D-penicillamine))の反応性について調査しており、pHによる構造変換、二座キレート配位子との反応による混合配位子単核錯体の形成を報告している。 本年度は、1と各種含硫化合物の反応性を調査し、スルフィド架橋化合物の合成を目指した。残念ながら、本年度中に目的化合物の単離には至らかなかったが、ピリジン類との反応により、錯体1のマクロサイクルの変換挙動を確認したので、その反応機構と置換基効果について詳細に調査した。 錯体1と過剰量のpyを水中で反応させることにより、橙色結晶(2)を得た。単結晶X線構造解析の結果、錯体2は、1の3分子のD-penのうち2分子がN,Sキレート型へと変化し、空いた配位サイトにpyridine (py)が配位したC1対称の硫黄架橋三核錯体([Pd3(D-pen)3(py)2])であることが判明した。反応溶液の1H NMRスペクトル追跡から、錯体2は二段階の反応を経て形成されることが分かった。また、pyのメチル誘導体を用いて類似の反応追跡を行ったところ、3,5位あるいは4位にメチル基がある場合は、pyと同様の二段階の変換反応が起こることが分かった。一方で、2位にメチル基がある場合は反応が一段階目で終了し、2,6位にメチル基がある場合は反応が起こらなかった。 さらに、錯体1と2-pyridinethiol (Hpyt)を水中で反応させたところ、速やかに赤橙色結晶(3)が析出した。錯体3はPdII四核錯体H3[Pd4(D-pen)4(pyt)3]であり、4つのD-penは全てN,Sキレート配位していた。3分子のpytのうち2分子はS単座でPdII中心に配位し、もう1分子のpytはチオラト基とピリジン基で2つのPdII中心を架橋していた。
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