着生植物をはじめとする林冠植物は熱帯林において多様かつ豊富であるにもかかわらず、森林が急速に減少する東南アジア熱帯においては林冠植物に関する研究事例が少なく、林冠植物群集の保全に向けたデータを集めることが急務となっている。 主要な調査地であるドイインタノン国立公園(タイ)において雨期に現地調査を実施した。林内での空間分布を記録した維管束着生植物32種を対象として葉を採取し、形質を測定した。 これまでに得られたデータを用いて、熱帯林内の着生植物の空間分布がどのように規定されているのかを解析した。林内のハビタット構造(空間的・構造的特徴)は微気象と強く相関していたために、着生植物の空間分布とハビタット構造との関係性に着目して解析を行った。着生植物の種ごとの空間分布は重複していたが、ハビタット構造の変異にともなって出現する種の生活形(葉の常落性と生育型)が推移することを明らかにした。一方で、種の葉形質は常落性によって異なり、常緑種は葉の光合成能力よりも構造にコストをかけるが、落葉種ではその反対の傾向があった。また、生活形ごとの空間分布と葉形質の間には連関性があることを示した。これらの研究成果をまとめた原著論文を国際誌に投稿準備中である。 6月に京都で開催された日本熱帯生態学会においては林内の光環境によって生育する着生植物の種が異なるという研究成果を発表した。また、3月に仙台にて開催された日本生態学会では着生植物の空間分布とハビタット構造の関係性を解析した結果をまとめて発表した。両発表において発表賞を獲得した。 中国雲南省のシーサンパンナ熱帯植物園において開催された林冠研究ワークショップに参加した。関連分野の研究者との議論を通じて研究の進展や研究者ネットワークの拡大につながった。
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