研究課題/領域番号 |
14J01576
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 克彦 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | X線結晶構造解析 / トランスポーター / 多剤耐性菌 |
研究実績の概要 |
多剤耐性菌感染症の克服に向け、菌の薬剤耐性獲得および菌の毒性発現への関与が明らかになりつつある薬剤排出トランスポーターの阻害剤開発を目指し、以下の3つの課題に取組んでいる。(1.緑膿菌RND型トランスポーターMexYの構造解析 2.大腸菌多剤排出システムAcrAB-TolC複合体の結晶構造解析 3.マクロライド系抗生物質排出ABCトランスポーター MacBの結晶構造解析)平成27年度は目標に対し次の事が明らかとなった。 1. 精製したMexYに対するSecond Detergent Screeningにより新たに分解能向上に効果のある界面活性剤を見出し、条件検討の結果、SPring 8で4オングストローム程度のX線回折データの取得に成功した。現在は分子置換法、重原子憧憬置換法、多波長異常分散法により位相決定を試みている。 2. 前年度までに、AcrBとAcrAを1:1で結合させたAcrB-AcrA融合たんぱく質に関して、間をつなぐリンカーの最適化が完了した。AcrAホモログのAcrEの影響を指摘されたので、AcrEの影響及びAcrB-AcrA融合たんぱく質の発現量と排出活性の相関を検証した。acrAB欠損、acrABacrEF欠損の両菌株において発現させた融合たんぱく質に機能の違いはなく、AcrEF自身の活性およびAcrABへの活性増強作用はみられなかった。また、AcrB-AcrA融合たんぱく質の発現量を制御したところ、acrABacrEF欠損株、acrB欠損株の両菌株で発現量-排出活性相関は変わらなかった。以上の結果は、融合たんぱく質がそれ自体で機能し、余剰なAcrAもしくはAcrEは排出活性に必須でないことを示している。 3.MacBの大腸菌発現系の問題点として、発現時に切断されている事が明らかとなった。発現系を見直したところ、セルフリーサイエンス社のコムギ無細胞発現システム:ProteoLiposome BD Expression Kitを用いた場合に、全長MacBのみが発現することを確認した。結晶化条件の検討を続け、構造解析可能な結晶の調製を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.緑膿菌RND型トランスポーターMexYの構造解析 2.大腸菌多剤排出システムAcrAB-TolC複合体の結晶構造解析 3.マクロライド系抗生物質排出ABCトランスポーター MacBの結晶構造解析、についてそれぞれ記述する。 1.前年度に最適化したMexY精製法とSecond Detergent Screeningにより大型放射光施設SPring 8 で4オングストローム分解能のX線回折データが取得できた。今回得られた4オングストローム分解能は、分子置換法による位相決定およびポリペプチド主鎖の構造決定が可能な分解能であり、今回得られている結晶の構造解析は実現が期待できる。以上から順調に進行していると考える。 2.昨年度最適化が完了したAcrB-AcrA融合タンパク質は構造と機能が示唆されていたが、発現量-活性相関を取った結果、1:1で十分機能する予測に合致する結果となった。引き続き構造解析を目指してAcrB-AcrA融合タンパク質の結晶化を行う。精製法の確立も完了しており、また 協働して機能する外膜ポリンTolCの精製法も確立し、三者複合体構造を解析するための準備は十分に整ったと言え、現在は三者複合体の結晶化を行っている。以上より、順調に進行していると考えられる。 3.発現系にまで立ち戻った検討の結果、ProteoLiposome BD Expression Kitを用いた場合にリポソームに全長のMacBのみが発現することが確認できた。このことは、発現条件検討が完了したのみならず、精製も容易に行えることが期待される。また、大量発現を達成したリポソーム画分の精製後ほどの純度があるため、界面活性剤を使った可溶化、精製を経由せずに直接Lipid Cubic Phase法を適用する結晶化を検討している。以上より、発現系の再検討はあったものの、順調に進行していると考えられる。 以上から、総合すると、概ね順調に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1.緑膿菌RND型トランスポーターMexYの構造解析 、2.大腸菌多剤排出システムAcrAB-TolC複合体の結晶構造解析、3.マクロライド系抗生物質排出ABCトランスポーター MacBの結晶構造解析、についてそれぞれ記す。 1.引き続きより高分解能を達成するMexYの結晶化条件および結晶調製法を探索する。また、位相決定を行うためMAD法を適用すべく、MexYのSe-Met置換体の調製と結晶化にも取り組む。結晶は大型放射光施設SPring 8のX線を使い構造解析する事を計画している。その他、より高分解能を達成できる構造解析に適したMexY変異体等を作製し、発現条件検討および結晶化条件探索を行う予定である。 2.AcrB-AcrA融合タンパク質の結晶条件探索を行い二者複合体、三者複合体の構造解析を目指す。二者複合体解析では、通常の結晶化に加え、Lipid Cubic Phase(LCP)法により結晶化条件を検討する。昨年度作製したAcrB-AcrA-TolC融合タンパク質は活性を示さなかったが、外膜に発現したTolCの大量発現系、精製法の確立ができたため、AcrB-AcrA融合タンパク質とTolCの共結晶化を行い、三者複合体結晶の調製を目指す。また、システイン架橋を利用したAcrB-TolCの生理的複合体を用いて強制的に固定したAcrAB-TolC複合体のクライオ電子顕微鏡による解析で三者複合体の解析を目指す。 3. コムギ無細胞発現系ProteoLiposome BD Expression Kit により、全長MacBの発現が確認できたので、界面活性剤を用いた通常の精製、もしくはリポソームから直にLCP法による結晶化条件探索を行う。
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