ヒトの身体の冗長性に起因する運動制御の不良設定問題はベルンシュタイン問題として知られている。この問題を解決する上で、筋群間の協調作用(筋シナジー)は重要な手掛かりとなると考えられている。筋シナジーは運動指令の機能的単位であり、制御自由度の数を減らす次元圧縮に貢献する。そのため、数多くの神経科学者が筋電位(EMG)から筋シナジーを抽出することで、ベルンシュタイン問題の解決を試みている。 本研究では、筋シナジーの観点からヒトの運動の生成機序を理解することを目的とするとともに、筋シナジーを利用した装具支援の実現を目指した。筋シナジーを装具の制御に利用することで、ヒトと親和性が高く、違和感の少ない装具支援が可能になると考えられる。 本年度は筋シナジーを装具の制御に利用するために、外骨格を持たない人工筋駆動の下肢装具(以下、ソフトエクソスケルトン)を開発した。そして、1名の被験者に対して、被験者の歩行運動から抽出した筋シナジーをソフトエクソスケルトンに移植して人工筋への空気圧コマンドを制御し、被験者の歩行運動を支援した。その結果、被験者にソフトエクソスケルトンによる違和感を与えることなく歩行運動中の代謝エネルギーを減少させることに成功した。この結果から、筋シナジーに基づいた装具支援は装着者への違和感を減らすことができる可能性が示唆される。今後は被験者の数を増やして、今回得られた結果の信頼性を高めたいと考えている。
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