本研究では、固体高分子形燃料電池(PEFC)の構成部材である微細多孔質層(MPL)内におけるマイクロナノスケールの水分挙動を観察し、得られた知見を用いて高出力運転に適したMPL構造を検討する。当該年度では、高出力運転に適したMPL構造の一つと考えられる親水性カーボンファイバー(CF)MPLを用いて、電池性能の高出力化においてMPLに求められる要素を検討した。得られた成果を以下にまとめる。 1.I-V性能測定と酸素ゲインで構成される発電性能試験により、親水性CFMPLは高電流密度域における濃度過電圧の増大を抑制することでセル性能向上に寄与することが示された。また、カソード(空気極)側MPLの濡れ性、空孔径、厚さを変えた4種類のMPLを用いて発電性能を取得および比較した結果、親水性CFMPLによる濃度過電圧の増大抑制は、 上記の三要素を適切に設計することで実現し、 どれか一つでも欠けると発電性能が向上しないことが示された。 2.凍結固定化法を用いたCryo-SEM断面観察と酸素ゲインの比較より、親水性CFMPLはMPLの親水化によりカソード触媒層(CL)からの液水輸送を促進し、空孔径の拡大により輸送した液水を液膜として表面積を広げ、十分な厚さによりMPL内で液水を蒸発させる機能を有することが考察された。この液水吸収、蒸発メカニズムが濃度過電圧の増大を抑制し、発電性能を向上させると考えられる。 3.発電性能の向上にカソードCL内の酸素拡散が与える影響を、限界電流密度法を応用して解析した。その結果、親水性CFMPLはカソードCL内の酸素輸送抵抗を軽減してフラッディング(生成水の過剰なセル内滞留による酸素供給阻害がもたらす性能低下)を改善することが考察された。
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