研究課題/領域番号 |
14J01622
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大谷 智仁 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 脳動脈瘤 / コイル塞栓 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
平成26年度は,①臨床で用いられるコイルの物性や初期形状を考慮した,脳動脈瘤へのコイル挿入の計算力学モデル構築,さらに構築したモデルの妥当性を検証するため,②瘤ファントムモデルに留置したコイルのマイクロCT計測の二つを行った. 瘤内に挿入されるコイルの運動を表現するため,コイルの形状を離散的な線要素の集合としてモデル化した.コイルの運動はエネルギ最少化原理に従うものとし,コイル間やコイルと瘤壁面間との接触をそれぞれ考慮した上で,外力を加えて瘤内へとコイルを挿入する計算力学モデルを構築した.臨床において,より多くのコイルを効率的に瘤内に留置するため,コイル形状はあらかじめ一定の曲率が設定される.そこで,本計算力学モデルにおけるコイルの初期形状を二次元の螺旋形状や三次元的な複雑形状に設定し,一本のコイルを瘤内に挿入するシミュレーションを行った.瘤径と近い曲率を持ち,三次元的な初期形状を設定したコイルが瘤全体に均等に分布し,バスケット状の構造を形成することを確認した.これは臨床における観察所見と定性的に一致する. また,開発したモデルの妥当性を検証するため,マイクロCTを用いて瘤内に塞栓されたコイル分布の計測技術の確立を試みた.脳動脈瘤患者のCT画像から再構築した脳動脈瘤形状のシリコーンモデルを作製し,臨床にて実際に用いられるコイルを本モデルへ挿入した.コイルの充填率が臨床と同程度の30%程度となるまでコイルを留置し,マイクロCT計測を行った.撮影において適切なパラメータ設定を行い,得られた断面画像を二値化し等値面を抽出することで,瘤モデル内に留置されたコイルの三次元形状を抽出できた. 結輪として,平成26年度は①の目標であるモデル構築についてはほぼ達成でき,②の目標についても計測手法の構築まで達成できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度において,実際のコイルの物性や初期形状を考慮した脳動脈瘤コイル挿入の計算力学モデル構築を達成した.コイルの瘤壁面やコイル同士での接触に起因する幾何的な制約についてLagrange未定定数法を用いて扱い,コイルの弾性エネルギと幾何制約を内包した汎関数を定め,その変分を解くことでコイルの運動を表現した.コイルの形状を離散的な線要素としてモデル化し,線要素を構成する節点に三次元的な変位と回転の六自由度を設定することで,コイルの弾性抵抗として引張圧縮・曲げ・ねじりの三つを表現した.このとき線要素の運動はTimoshenko梁理論に従うとした.また,コイルの壁面やコイル同士での接触の際の摩擦力はクーロン則に従うとして簡易的に表現した.これによりコイルを瘤内へ留置した際のコイルの運動や,コイル物性および初期形状の影響を表現できた. また,瘤シリコーンモデルに留置されたコイルのマイクロCT撮影において,CT再構成画像に生じるメタルアーチファクトを除去するため,X線源の管電圧を機器の許容最大電圧である100 kVまで上げ,軟線除去のために厚さ8 mmのアルミ板を線源に設置した.これにより再構成画像のアーチファクトが大幅に軽減され,充填率30%程度の高密度で留置されたコイルに対してもその内部構造を取得することができるようになった.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度において,実際の臨床と同様,さらに複数のコイルを瘤内に留置する挿入シミュレーションを実施する.このとき瘤内のコイル充填率が増加するに従い,接触点の数が増え,数値計算の安定性の低下および計算コストの増大が予想される.そこで計算手法の安定化と高速化を考慮したシミュレーションコードの改良を通年行う.また,挿入シミュレーションにおいて,コイルの物性や初期形状,挿入条件が異なる場合での多数例の計算を行い,それぞれのコイルが瘤内でとり得る分布の評価や、充填率と分布の均一性との関連,最適なコイルの挿入位置について検討する. 瘤シリコーンモデルに留置されたコイルのCT再構成画像から,画像処理により瘤内におけるコイル分布の均一性を評価するとともに,標本数を増やし,コイル充填率とコイル分布のばらつきとの関連を調べ,構築したコイル挿入の計算力学モデルの結果と比較することで,構築したモデルの妥当性を評価する.最終的には患者個別の脳動脈瘤形状に対して挿入シミュレーションを行い、得られたコイル形状を用いて,コイル塞栓された瘤内血流の数値流体解析を行うことで,コイル挿入条件とコイルの瘤内分布のばらつき,瘤内血流へのコイル塞栓の効果を統一的に評価する.
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