うつ病の発症メカニズムは過剰なストレスが脳のある特定の神経回路や神経細胞に変化を引き起こすと推測されている。本研究では、ストレスによって正常なマウスがうつ様の症状を発症する過程において、in vivo2光子顕微鏡法を用いて、大脳皮質前頭前野領域における樹状突起スパインの形態変化を捉えることで、発症・回復機序に関する知見を得ることである。本年度では、昨年度までに得られた成果である、前頭前野の樹状突起スパインにおける形態変化について論文を執筆した。この成果から固定脳における樹状突起スパインの変化を確認したため、次は昨年度まで開発してきた新規ピコ秒光源を用いたin vivo2光子顕微鏡法を前頭前野領域の樹状突起スパイン観察を試みた。その結果、前頭前野のスパイン観察までは至らなかったが、通常では観察が困難である表層から1.7mm深部に位置する前頭野細胞体の可視化まで達成した。スパイン観察まで至らなかった原因として蛍光の励起強度の指標である2光子励起確率の不足が考えられた。そのため、2光子励起確率に関わる変数の一つである繰り返し周波数を変更し、昨年度開発した顕微鏡法に比べて約5倍の2光子励起確率を用いることで観察深度の向上を試みた。しかしながら、昨年度までの方法と同程度の深さまでしか可視化できず、スパイン観察までは至らなかった。この結果から、繰り返し周波数の大きさには閾値があることが示唆されたため、今後は2光子励起確率における繰り返し周波数以外の変数を精査していく必要がある。
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