研究課題/領域番号 |
14J01654
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
陽川 憲 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 光忌避 / 活性酸素種 / オーキシン / 根 |
研究実績の概要 |
光は植物にとって、光合成活動を始めとして重要な環境因子の一つである。植物は、外界の環境変化に応じて生長を調整する屈性を有し、なかでも光によるものを光屈性と呼ぶ。これまでに多くの植物光屈性研究が行われてきているにもかかわらず、根部の光屈性についての十分な研究がなされていない。 光依存的重力屈性等は数十年前より報告がなされてきており、また、光照射環境下で生育された根を持つ植物体は自然環境(根が土中・暗所にて生育)のそれと比して表現型が大きく異なることから、根の光応答の生理学的解明が課題となっている。多くの根の屈性反応には根の先端部における、植物ホルモンのひとつであるオーキシン分子分布の精密なコントロールが必要となる 本研究においての目的は、根の光応答時のオーキシン分子とそれに関わる因子挙動について明らかにすることである。トウモロコシ根を実験材料として用いて、光照射後のトウモロコシ根のオーキシン濃度をガスクロマトグラフ質量分析法を用いて定量した。その結果、光環境に応じてオーキシン含量に変化があることが明らかになった。また、光照射後の根の動きを観察する為にタイムラプス微速度撮影法を用いて、光照射時におけるトウモロコシの根先端のふるまいの差違を見出した。 光依存的オーキシン量変化についての解釈として、既報の結果を基に、光環境下におけるフラビンとトリプトファンの反応による活性酸素とオーキシンの前駆物質インドールアセトアルデヒドの生体内における生成反応に関する知見を国際誌に発表した。 共同研究として、イタリア・フィレンツェ大学とスロヴァキア・コメニウス大学の研究者間でトウモロコシ根を用いたメタボロミクス解析を行っており、根の光応答に関する一定の結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、既報の結果である根先端において光依存的に生成される活性酸素種と、屈性に重要な働きを担うオーキシンの相互作用を観察する計画であったが、研究課題開始直後の実験によりオーキシン分子自身が光照射により量を変化させていることが示された。このことから、オーキシン量を調節する因子についての考察を得ることが出来、まず生化学的な反応の提案、国際誌への報告に直ちに到った。 この着想を基に、植物根の光忌避反応における活性酸素の関与を考える上で、課題提案時よりも多くの派生的な実験計画を生じ、今後の研究の深化に繋がろうとしている。つまり、光屈性時に起こる反応としてだけではなく、植物の生育に関わるオーキシン分子と活性酸素の普遍的な相互作用を理解する上で重要な課題となりうる。 また、海外機関(ドイツ、中国、イタリア、スロヴァキア)との共同研究を開始し、各機関の保有する高度分析装置を利用することで、オーキシン、活性酸素とその周辺因子に関しての知見も得られ始めている。これら一連の動きを初年度に推進させられたことは研究課題申請時の提案事項以上の進展があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後、引き続き植物根(トウモロコシに加えてシロイヌナズナ、イネ)を用いて光応答時における細胞シグナリングについて解析を行う。特に、前述のオーキシン分子がにある箇所からある箇所へと運ばれて、濃度勾配を生じる極性オーキシン輸送は全ての根の屈性運動に必要な過程であることが報告されている。オーキシン分子、輸送体のみならず多くのタンパク質や生体分子の輸送に重要な働きを担う、小胞輸送についての研究を計画している。具体的には小胞体輸送阻害剤、細胞骨格阻害剤を用いて光に対する応答実験を行う。さらに、オーキシン分子と活性酸素に加えて、その他の植物ホルモンについての関わりの検討を行う。これについては現在ドイツの研究機関からの共同研究(分析)の内諾を受けている。次年度にはこれまでの成果について、幾つかの国際誌への発表を計画している。
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