研究課題
光は植物にとって、光合成活動を始めとして重要な環境因子の一つである。植物は外界の環境に応じて常に生長速度や方向を変化させており、これは屈性反応として広く知られている。特に、季節や日中変化し続ける光に対する植物の応答を光屈性と呼ぶ。光屈性に関する詳細について、植物地上部における研究は活発になされてきているが、地下に位置する根部の光応答に関する研究は十分になされてきていなく、不明な点が多い。以前より、根が光の刺激を受けると速やかに根の重力屈性(屈曲)が促進されることが報告されていた。これは、根が光からいち早く遠ざかるための忌避反応の一部であると考えられる。しかし、光受容後のメカニズムについては解明がなされていなかった。今回、トウモロコシ幼根を用いて光照射の実験を行った所、根の先端部において植物ホルモンのひとつであるオーキシン分子が蓄積していること、また、オーキシン分子が根端において新規にトリプトファンより生合成されていることが分かった。根冠を除去した根には光依存的重力屈性が見られなかった。オーキシンは根の屈性において細胞分裂、伸長などをコントロールする上で重要な働きをもつ分子である。一連の結果から、光によって根端でのオーキシン生合成が促進され、根の重力屈性・屈曲反応をコントロールしている因子でとして中心的な役割を果たしていることが初めて明らかにされた。
1: 当初の計画以上に進展している
当初計画していた活性酸素と根光忌避反応の関係究明のための研究の初期段階から、根の光依存的な重力屈性、根冠の重要性、さらに応答をコントロールするオーキシン分子の根における生合成が見出されたことは、計画段階では予期しなかった結果であり、報告を現在国際誌へ投稿し、現在最終修正段階である。また、オーキシンの合成が見出されたことから、光環境下における根の他の物質合成・代謝をさらに調査するため、イタリア、スロバキアの研究機関と共同して網羅的な代謝物解析を行った。その結果、根の光応答のみならず屈性に関わる興味深い分子(アミノ酸・糖等)の分布が見られ、今後の根の生理学研究にとって重要な知見となることが期待される。以上の点から、本研究進捗状況は計画よりも進展しているといえる。
今後、オーキシン生合成に関する知見に基づき、引き続き植物根(トウモロコシ、イネ、シロイヌナズナ)を用いて光応答時におけるより詳細に細胞内シグナリング、光受容体などの関与を調査する。特に、オーキシン分子が組織非対称的に運搬され、濃度勾配を生じる「極性オーキシン輸送」は全ての屈性運動に必要な過程であることが知られている。光依存的重力屈性時に、どのように極性オーキシン輸送がコントロールされているか検討を行う(照射側、非照射側など)。これまでに、白色光を使用して根の屈性応答を観察してきたことから、どのような光受容体が関わるのかを明らかにする為に、今後特定の光の波長(紫外、青、緑、赤)についての応答の検討も行う。
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