研究実績の概要 |
本研究では記憶の忘却の分子機構を明らかにするために、線虫C. elegansにおける嗅覚順応をモデルとして解析を進めている。先行研究において、TIR-1/JNK-1経路が嗅覚順応の忘却を促進することが明らかになっている(Inoue, A. et al., 2013)。本研究では、忘却を促進する分子機構において、この経路の下流を明らかにするために、tir-1機能獲得型変異体のサプレッサー変異体をスクリーニングにより探索し、解析を行なっている。 スクリーニングによって得られたサプレッサー変異体のうち、1系統の原因遺伝子が、膜タンパク質をコードしている遺伝子であることを、昨年度までに同定していた。本年度はこの膜タンパク質の変異体について、細胞特異的表現型回復実験を行うことにより、膜タンパク質が複数のニューロンで機能している可能性が高いことを明らかにした。また、さらに別の1系統のサプレッサー変異体については、昨年度までに原因遺伝子が、受容体チロシンキナーゼをコードしていることを明らかにしていた。本年度は、CRISPR/CAS9システムを用いて、受容体チロシンキナーゼの発現が神経系特異的に阻害されると、嗅覚順応の忘却が抑制されることを明らかにした。これらに加えて、本年度は、新たに1系統、別のサプレッサー変異体についても、原因遺伝子の候補を6つにまで絞ることができた。 先行研究において、TIR-1/JNK-1経路の活性化により、AWC感覚神経から神経分泌が行われることで、忘却が促進することが明らかになっている(Inoue, A. et al., 2013)。しかし、このニューロンが学習と忘却の過程において、どのタイミングで機能しているのかは明らかになっていない。これを明らかにするため、ヒスタミン作動性Cl-チャネルを用いて、時期特異的にAWCニューロンの機能を阻害するという実験系の開発を試み、一部成功している。
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