昨年に引き続き、藤原良経の和歌活動・和歌表現の研究を進めた。和歌活動の研究としては、天理図書館、国会図書館、国文学研究資料館に出向き、良経の歌壇活動の資料として有用なものがないか調査を行った。和歌表現の研究では、新古今時代に特徴的な用いられ方をするようになる「むすぼほる」という語、また以前学会発表で取り上げた「心の空」という表現に着目し検討を進め、加えてこれまで内容面の検討がなされていない『三十六番相撲立詩歌』の本文整定、注釈の作成も進めた。 「むすぼほる」という語に着目した研究では、用例を時代順に検討し、特に新古今歌人たちに大きな影響を与えた『源氏物語』中の用例に関しては古注を参照しながら改めてその語義を確認した。その結果、新古今歌人たちは「むすぼほる」という語に時間的な要素が潜在することを見出し、そこに新古今時代を特徴づける時間意識を反映させながら用いているということ、またこのような語の摂取のありようは本歌取などで先行作品のことばを取る際の歌人たちの意識という問題に繋がることを明らかにした。この成果を現在論文「「むすぼほる」考―新古今時代の用法を中心に―」としてまとめている。 また、「心の空」という表現に着目した研究を、2013年の中世文学会秋季大会での発表「藤原良経の叙景表現――「心の空」を中心に――」をもとに進め論文化した。これは、良経の「心の空」という語の独特な用法は、一首内に文脈のずれを作るところから生じているという学会発表時の内容に、新たに心情の喩として持ち出される景の質の差異という問題を加えて論じ直したものである。この論文は近日学会誌に投稿予定である。 『三十六番相撲立詩歌』については、諸本間の校異をとり、本文に正確な注釈を付すことを当面の課題とし、これを進めた。 以上の研究に加えて、前年に引き続き藤原良経の家集である『秋篠月清集』の注釈の作成も進めている。
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