研究課題
今年度は、Caenorhabditis elegansを用いた病原性スクリーニングによって単離したPhotorhabdus luminescensの病原性変異株のうち、pdxB遺伝子変異株(以下、pdxB::Tn5)について詳細な表現型解析を行なった。相補性試験の結果から、病原性の減衰はpdxB遺伝子の欠損によるものであることが確認され、加えて、pdxB遺伝子の欠損は貧栄養培地での増殖力の減衰も引き起こしていることが明らかになった。他種の細菌を用いた先行研究からpdxB遺伝子はビタミンB6の新規生合成経路に必須な遺伝子であることが推測された。そこで活性型ビタミンB6であるpyridoxal 5’-phosphate(PLP)を貧栄養培地に複数の濃度で添加したところ、増殖力は濃度依存的に向上し、10μMのPLP添加で野生型と同程度の増殖が確認された。したがって、pdxB::Tn5ではビタミンB6の新規合成を行うことができないために貧栄養培地での増殖力が低下していることが示された。また、PLPの前駆体である他種のビタミンB6類を添加した貧栄養培地でpdxB::Tn5を培養した場合でも野生型と同程度の増殖が確認された。したがって、P. luminescensは新規合成経路とともにsalvage pathwayというPLPの前駆体であるビタミンB6類を介した経路によっても、PLPの合成を行なっていることが予想された.さらに、PLPを添加した培地でC. elegans幼虫に対するpdxB::Tn5の病原性の評価を行った。PLPの添加を行ったpdxB::Tn5では野生型株と同等の発育阻害効果を示したことから、pdxB::Tn5ではビタミンB6の新規合成を行うことができないためにC. elegansに対する病原性が低下していることが示された。加えて、pdxB::Tn5では野生型株に比べてジャイアントミールワーム(Zophobas morio)に対する致死効果が低下していることが確認され、ビタミンB6の新規生合成経路は殺昆虫活性にも関与していることが示された。
2: おおむね順調に進展している
従来の予定よりも早く、C. elegansを用いた昆虫病原性細菌P. luminescensの病原性変異株スクリーニングで得たpdxB遺伝子変異株の詳細な表現型解析をおこなうことができたため。また、その結果、ビタミンB6が線虫・昆虫の両者に対する病原性の発揮に重要な物質であることを突き止めることができ、本方法が新規病原性因子の探索に有効な手段であることを示すことができたため。一方で、C. elegans耐性変異体の作出については、様々な代替案の実施を検討しながら進めているため、総合的にはおおむね順調に進展している、と判断した。
今後は、もう一方のP. luminescensの病原性変異株についても詳細な解析を進めていく予定である。この株は機能未知な遺伝子に起きた変異が病原性に影響を及ぼしていることが予想されるため、様々なアプローチで原因遺伝子が病原性において果たす役割を明らかにしていく予定である。同様にP. luminescensに対するC. elegansの耐性変異株についても様々な手法検討を続けていく予定である。
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Applied and Environmental Microbiology
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中部大学 生物機能開発研究所紀要
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