研究課題/領域番号 |
14J01717
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柏 浩司 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 非閉じ込め相転移 |
研究実績の概要 |
本年度は、量子色力学(QCD)のトポロジカルな性質を利用した研究を主に行った。特に、虚数化学ポテンシャルを利用することによってそれまで隠れていたQCDの性質が露になり、閉じ込め・非閉じ込め相転移に対する新しい観点とその性質を明らかにすることに成功した。さらに、近年注目を集めている空間非一様なカイラル凝縮によって記述される非一様相の研究も行なった。 まず、非閉じ込め相転移のトポロジカル秩序を利用した研究を行った。先行研究により、ゼロ温度では閉じ込めと非閉じ込め状態をトポロジカル秩序により分類できる事が知られていた。その分類では真空の縮退が重要な役割を果たす。一方、有限温度では熱励起が存在するため、この分類を適用できなかった。そこで、真空の縮退のアナロジーとして、自由エネルギーの非自明な縮退を非閉じ込め相転移の記述に用いる事を提案した。 次に、非閉じ込め相転移の新しい量子秩序変数の構築の研究を行った。具体的には、我々の新しい非閉じ込め相転移の定義に基づく量子秩序変数を構築した。トポロジカル秩序を記述する古典秩序変数は存在しないことが知られているが、量子的秩序変数の存在は否定されていない。そこで我々は、クォーク数密度を虚数化学ポテンシャルで一階微分し、その後0から2πTまで数値積分し直す量を提案した。 非一様カイラル凝縮の格子QCD計算における観測可能性の研究も行った。近年の様々な研究から、有限の実数化学ポテンシャル領域には空間非一様なカイラル凝縮によって記述される相が存在すると期待されている。しかし、この相は現在まで格子QCD計算によって観測された事は無い。そこでこの様な凝縮の格子上での観測可能性を、解析接続の概念を利用して調べた。 また、有効模型における符号問題のレフシッツ・シンブル法を利用した研究や2カラーQCDにおける有効模型と格子QCD計算の研究も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、トポロジカル秩序を利用した量子色力学(QCD)の非閉じ込め相転移の理解が進展した。このことは、QCD相図の定量的・定性的理解において非常に重要である。特にこれまでの理論的研究では、非閉じ込め相転移の記述は曖昧であり、そこで得られた相図の理解には問題あった。本年度の研究はこの曖昧さを取り除ける可能性を示したものである。また、新しい観点のよる非閉じ込め相転移を記述する量子秩序変数の構成にも成功した。更に、近年注目されている空間非一様なカイラル凝縮によって記述される非一様相の研究も進展した。この相の理解はQCD相図を考える上でもはや避けては通れない相である。この相がQCDの第一原理計算によって観測可能であるかは重要な観点であり、我々の研究によりその観測は数学的な問題により難しいことが示された。加えて、QCDの符号問題を解決し得る可能性のあるレフシッツ・シンブル法の有効模型への適用やカラー数が2のQCDの計算を行った。これらの研究はQCD相図の特に有限実数化学ポテンシャル領域に関係する研究であり、申請した研究を進める上で必要不可欠の研究である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で閉じ込め・非閉じ込め相転移の新しい定義を提案した。しかし、具体的な有効模型の計算は行っていないため、まず有効模型の計算を行い、新たな観点に基づくQCD相図を描く事を目指す。また有限の実数化学ポテンシャルへの理論の拡張も行う。その際には、有効模型にも符号問題が発生するためレフシッツ・シンブル法が重要な役割を果たすと考えられる。また、QCD以外のトポロジカル秩序の理解が進んでいる理論に対して我々の手法を適用し、現象論的な正当性を得ることも計画している。この理論には凝縮系物理分野で研究が進んでいるジョセフソン結合がある場合の一次元ワイヤー系をまず用いる予定である。以上の研究を遂行した上で、QCD相図の定量的議論を、虚数化学ポテンシャル領域での格子QCD数値計算の結果と有効模型を利用して行う予定である。
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