本研究の目的は、虚数化学ポテンシャルと外部磁場を利用して量子色力学(QCD)の有限密度(有限実数化学ポテンシャル)における相構造を定量的に決定することである。本研究における重要な問題は、有限実数化学ポテンシャル領域には符号問題が存在し、第一原理計算である格子QCD数値計算が破綻してしまう事である。そこで、符号問題の存在しない虚数化学ポテンシャル領域と外部強磁場が存在する系を考え、それらの系における格子QCD数値計算を利用し、有効模型を拡張して信頼できる有効模型を構築することをまず目的とした。その上で、その拡張された模型を用いてQCD相構造を定量的に解明することを目指した。研究課題を遂行するため、今年度は下記にまとめる虚数化学ポテンシャルにおけるQCDの研究を進めた。また、外部磁場が系に存在する場合については、京都大学理学部所属の李氏、西山氏、吉池氏との共同研究をarXiv:1507.08382 として公開し、その継続研究を議論中である。 具体的には、昨年度行った「物性物理分野において研究が進展してきたトポロジカル秩序と虚数化学ポテンシャルを利用した研究」について継続的に研究を行った。昨年度、トポロジカル秩序は我々の系には直接は使えないがそのアナロジーを利用することによって非閉じ込め相転移の擬臨界温度が定義できる可能性を示したので、この非閉じ込め相転移の定義に乗っ取った量子的秩序変数を虚数化学ポテンシャルにおけるクォーク数密度の性質を利用して構築した。本研究は、非閉じ込め相転移の性質とその定義に関係する重要な研究であり、定量的なQCD相図の理解において不可欠である。また、成果1の結果は基本的にゼロ実数化学ポテンシャルでの成果であったので、その研究を有限の化学ポテンシャル領域へ拡張した。
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