今年度は、まず屋久島でしか見つけられていないモトイタチシダ(イタチシダ類の二倍体有性生殖種)が近隣の島に本当に生育していないのかどうかを確認する調査を行った。トカラ列島で採集された若いイタチシダ類の標本情報を基に中之島を訪れたが、無配生殖種のオオイタチシダとナンカイイタチシダ(生殖様式不明)しか見つからなかった。口永良部島で採集されたイタチシダの標本が国立科学博物館(TNS)から見つかったが、これもオオイタチシダであった。よって、モトイタチシダは屋久島固有種であると考えられる。 そして、博士論文をまとめるにあたってイタチシダ類の分類学的再検討を行った。従来「オオイタチシダ」とされてきたものに3つの遺伝子型があることがこれまでの研究で明らかになっていた。αタイプ(ナンカイイタチシダとモトイタチシダの雑種起源)はオオイタチシダDryopteris hikonensis、βタイプ(ナンカイ+モト+イワ)は新種イワオオイタチシダDryopteris subhikonensis、γタイプ(ナンカイ+モト+ハチジョウベニシダ)は新種ベニオオイタチシダDryopteris erythrovariaとして整理した。これらのうちイワオオイタチシダについてはオオイタチシダと酷似していることもあり、大まかな分布域を核DNA型、さらに外部形態に基づいて国立科学博物館(TNS)に収蔵されたオオイタチシダの標本を検討したところ、日本海側を中心に分布していることが分かった。 また、昨年度の調査において対馬で見つかったベニシダ類の四倍体無配生殖型の新雑種アラゲミサキカグマ(ミサキカグマ×未確認二倍体種)、ツシマミサキカグマ(ミサキカグマ×ハチジョウベニシダ)の現地における生育状況を確認した。いずれも局地的であったが、ツシマミサキカグマに関してはまだ生育個体数は多かった(場所によって数十は見られた)。
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