研究課題/領域番号 |
14J01721
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
尾坂 美樹 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 電流計測AFM / 有機薄膜太陽電池 / 共役高分子 / 導電性 / 相分離 |
研究実績の概要 |
H27年度は提出した研究実施計画に基づき以下の3つの成果を上げた。 1)C-AFMを用いた電子的構造解析による、共役高分子ブレンド薄膜の相分離ナノ構造の解明 1-A)太陽電池等の光電変換素子への応用が期待される電子ドナー材料(P3HT)とアクセプター材料(PFC)との混合膜の正孔輸送性を観察し、その電気的な構造を明らかにした。このブレンド薄膜はサブマイクロメートルスケールの相分離構造を有しているが、P3HT相であってもその導電性はP3HTニート膜に及ばないことが分かった。特にPFC相との界面では非常に電流値が小さく、PFCが多く混合していることが示唆された。このような異種材料がナノレベルで混合し界面を形成している領域は、電荷の生成や輸送など光電変換に重要な役割を果たすと考えられる。さらにこのブレンド膜に対して熱アニールを行いその前後で定点測定を行った。結果、P3HT相内にP3HT単一膜に匹敵する正孔輸送性を示すドメインが生じることが分かった。さらに相分離の進行により界面が狭くなる様子を実測することができた。これは熱アニールによる太陽電池の電荷回収効率向上に寄与していると考えられる。 1-B)電子ドナー材料(PTQ1)とアクセプター性材料(N2200)との混合膜を用いた光電変換素子では、幅広いブレンド比にわたって電子輸送性が担保されデバイスを作製できるという特長がある。しかしブレンド膜においてN2200による電子輸送がどのようにして実現されているかは明らかになっていない。そこで前年度に確立したC-AFMによる電子輸送性の測定手法をN2200/PTQ1混合膜に応用し電子輸送ネットワークを可視化した。結果2200の混合比率を20%まで低下させても膜全体で電子輸送ネットワークが形成されていることを明らかにした。 2)ナノスケールでの光起電力評価方法の開発 昨年度開発した光電流の検出手法を応用し、材料の光起電力を数十nmのスケールで可視化することを可能にした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は電流計測原子間力顕微鏡を用いることで分子鎖の集合状態と電気物性とをナノメートルスケールにおいて直接結びつけ、構造的な観点から材料機能の根源を明らかにすることである。中でも本研究は電子ドナー/アクセプター材料のブレンド薄膜の太陽電池機能に着目するものである。これまでに電子ドナー/アクセプター単一薄膜およびブレンド薄膜のそれぞれについて構造と暗状態での電荷輸送特性との関係を明らかにした。また、光照射状態での電子物性の評価方法については、初年度に計画した光生成電流量の観測だけでなく、光起電力の観測のめどがつき研究に取り掛かっている。初年度に掲げた6つの課題のうち研究の基礎となる4つの課題を終了し5つ目に取り組んでいる段階であり、おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は以下の計画に沿って研究を行う。 1)ナノスケールでの光起電力評価方法の信頼性を評価する。 構造が既知のSi太陽電池等を測定し、開発した手法で光起電力をどこまで正確に評価できるかを明らかにする。 2)電子ドナー/アクセプター材料のブレンド薄膜(太陽電池活性層)のナノ構造が有する光電子物性の解明 これまでに実施した光照射状態でのC-AFMによる電流測定、起電力測定の手法を用い、電子ドナー/アクセプター材料のブレンド薄膜における、光電流量および光起電力の分布を可視化する。これまでに得られたナノ構造やその電荷輸送特性についての知見と合わせ、ナノ構造と光電変換機能の発現との関係を明らかにする。 3)製膜条件により相分離構造を変化させ、材料の光電変換機能を最大限に引き出すナノ構造を明らかにする。得られた知見をもとに素子を作製し太陽電池特性を向上させることを目指す。
|