研究課題/領域番号 |
14J01723
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
菊川 寛史 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | Gene targeting / ω3-fatty acid / Mortierella alpina / Eicosapentaenoic acid / Eicosatetraenoic acid |
研究実績の概要 |
油脂生産糸状菌Mortierella alpina 1S-4を用いたエイコサペンタエン酸(EPA)などω3 脂肪酸の発酵生産法の開発にむけて以下A~Cを検討した。 A. 標的遺伝子座への遺伝子操作技術として、高効率遺伝子ターゲティング(GT)技術の開発を試みた。非相同末端結合(NHEJ)機構に関与するKu80もしくはLig4タンパク質の遺伝子を破壊することで、NHEJ機構の欠損および相同組換え頻度の向上によるGT効率化を試みた。結果、lig4破壊においてGT効率化を確認した。また、lig4破壊株を宿主としてΔ5不飽和化酵素(Δ5ds)遺伝子を破壊し低温(12℃)で培養することにより、ω3脂肪酸であるエイコサテトラエン酸の生産を実現した。 B. 作製した高効率GT株を宿主として、脂肪酸の鎖長延長に関与するmaelo遺伝子の破壊を試みた。結果、総脂肪酸の10%を占めていた長鎖飽和脂肪酸C20:0、C22:0、C24:0を全く蓄積しない株の作製に成功した。しかし、maelo破壊株の菌形態は通常と異なり、脂肪酸蓄積効率が低下する傾向にあった。よって、本菌の正常な生育と脂肪酸蓄積には、長鎖飽和脂肪酸群が不可欠であると示唆された。このように、本GT技術が脂肪酸の生理機能の解析に有効であると示された。 C. 室温条件でEPA生産可能なω3dsを本菌内で発現させることでEPA生産性の向上を試みた。土壌よりEPA生産菌を室温条件で単離した。この菌のもつω3ds遺伝子を単離し酵母発現系にて機能解析を行った結果、遺伝子産物が室温条件においてω3ds活性を有することを確認した。また、この遺伝子をM. alpina 1S-4に導入した結果、M. alpina 1S-4において室温条件でEPA生産(含有率17%、生産量0.4 g/L of culture broth)を実現した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の成果として、本研究室で研究対象としている糸状菌において効率的な遺伝子破壊技術を確立し、その応用として代謝工学により様々な希少脂肪酸の生産株の構築を実現した。さらに、EPA生産菌を自然界から単離、さらにその菌株のもつ脂肪酸生合成酵素遺伝子を同定し、本研究室の糸状菌において発現することにより、生産目標であるEPAの室温条件での生産化に成功した。 また、本研究において当初の目標以外の観点からも新たな知見を見出してきた。特に、遺伝子破壊技術による逆遺伝学的手法を用いて脂肪酸の生理的意義に関して言及した研究は初めてのことであり、今後、微生物菌体内で各脂肪酸がもつ生理機能に関する基礎研究も進展すると期待している。
|
今後の研究の推進方策 |
1.既に評価した各ω3不飽和化酵素遺伝子とアシルCoAシンテターゼ(ACS)遺伝子を共発現することによるEPA生産性を評価する。
2.M. alpina 1S-4における漏出変異に関係する遺伝子群を特定するために、本研究にて創製した高効率遺伝子ターゲティング株を宿主として候補遺伝子群を破壊し、逆遺伝学的に脂肪酸菌体外漏出のメカニズムを解明する。また、特定した複数遺伝子の破壊を組み合わせることにより、機能性脂肪酸の漏出高生産株の分子育種を行う。
3.これらすべての知見をもとに、本菌において各遺伝子の過剰発現及びターゲッティング破壊をすることにより、EPA超高生産株の創製を目指す。
|