研究課題
本研究では、未だ単離された報告の無いミュオン原子を単離し、その化学反応を観察することで、化学種としてのミュオン原子の可能性を切り開くことを目的にしている。そのために、本研究では、1)PTFEターゲットでのミュオン原子生成、2)電磁相互作用によるミュオン原子の分離、3)分離後のミュオン原子ビームの強度確認、4)気体固化ターゲットでのミュオン原子ビーム生成、5)ミュオン原子ビームの利用と順を追って研究を進めていく。平成27年度は、昨年度開発した装置(ミュオン原子TOF実験装置)の試運転および性能評価を行った。装置は真空チェンバー、ミュオン原子イオン発生用ターゲットおよび加速用電極、検出器(MCP)の3つから構成され、PTFEターゲットからミュオン原子を生成し、TOF型質量分析計の原理を用いてミュオンF原子イオンを単離することを目的としている。Figure 1に装置の概要を示す。本装置で加速器実験を行う前に、予備実験として、本装置を用いてレーザーアブレーションによる金属板からのイオン発生・加速実験を行い、TOFスペクトルを取得した。Figure 2にターゲットに銅板を用いたときの結果を示す。結果からは39Kと41K、63Cuと65Cuが天然の同位体存在比で検出でき、装置が正常に動作することを確認できた。また、ピークの半値幅より求めた質量分解能は、R=300程度と目標の191を上回ることが確認できた。平成26年度に引き続き平成27年度も、ビームタイムとして加速器施設J-PARCでの実験を2日間許可された。本年は6月にPTFEターゲット、10月以降に気体固化ターゲットを用いた実験をJ-PARCにて行い、上記項目の1~4を確認する。そして、ミュオン原子ビームの利用について道筋を立てる予定である。
2: おおむね順調に進展している
加速器施設の都合により、前年度申請した課題は延期され、今年度に実施することとなった。装置の調整は既に終了しており、いつでも加速器実験に臨むことができる。レーザーアブレーションによる金属板表面からのイオン発生・加速実験においても、同位体を天然の存在比通りに検出することができた。質量分解能についても、R=300と、要求値であるR=191を上回る分解能を確認できた。
平成28年度は、前年度に利用申請していた加速器実験を1件、そして、今年度新たに利用申請した加速器実験を1件行う予定である。2件目の実験では、レーザー加工により表面積を増大させたPTFEフィルムを用いてミュオン原子の収率向上に取り組む。また、冷凍機で固化させたアルゴンガスターゲットからのミュオンアルゴン原子の取り出しも実施する予定である。8月にはフィンランドで開催される国際学会NRC9にて発表を1件行う予定である。その他、国内でも学会発表を2件予定している。また、加速器実験で得られた結果をまとめ、本年度中に論文として投稿する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Radioisotopes
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