研究実績の概要 |
申請者の昨年度の研究は以下である: 1. Lipschitz収束しているコンパクト距離空間上の連続な確率過程の収束の研究 2. Measured Gromov-Hausdorff(mGH)収束している測度距離空間上のBrown運動の収束の研究 1. について。申請者はコンパクト距離空間がLipschitz収束している状況での連続な確率過程の収束を定義して、その位相的な性質を研究した。具体的にはコンパクト距離空間Xとその上の連続な確率過程の法則Pの組(X,P)の同型類の空間にLipschitz-Prokhorov距離を導入して、その距離が完備距離になることを示した。次に同型類の空間の部分集合がLipschitz-Prokhorov距離の下で相対コンパクトになる十分条件を求めた。また本研究に付随して、Lipschitz収束に関する非可分性についての研究を、京都大学の山崎陽平氏と行い、その結果はPacific Journal of Mathematics for Industryに掲載済である。 2. について。上記のLipschitz収束は空間の変化が高々Bi-Lipschitz連続程度の変化しか許されないが、mGH収束の場合は、Borel可測という粗い変化が許される。 そのため、確率過程の道の正則性が、空間の変化の粗さに影響されて、Borel可測な道を持つ確率過程となってしまい、確率過程の収束の研究が困難になってしまう。小倉(Prob.Theo.Relat.Fiel.2001)では、 空間の変化に応じて時間離散化をするというアイデアでこの問題を回避して, コンパクトRiemann多様体がmGH収束している状況で、Brown運動の弱収束を示した。申請者は、この結果が、一般の測度距離空間でRCD*(K,N)条件を満たす設定に一般化出来る事を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の研究は, 以下であった. 1. Lipschitz収束しているコンパクト距離空間上の連続な確率過程の収束の研究 2. Measured Gromov-Hausdorff(mGH)収束している測度距離空間上のBrown運動の収束の研究 それぞれについて, 当初の計画よりも順調に進展した. 以下にその理由を説明する.1. について。コンパクト距離空間がLipschitz収束している状況での連続な確率過程の収束を定義して、その位相的な性質を研究した。当初は, 収束の新たな定義までは考えていなかったが, 今回の研究によって, 距離から従う位相が入れられる事が分かった. 具体的にはコンパクト距離空間Xとその上の連続な確率過程の法則Pの組(X,P)の同型類の空間にLipschitz-Prokhorov距離を導入して、その距離が完備距離になることを示した。この点において, 当初の予定より進んだと考えられる. さらに, 本来は予想していなかった研究である, Lipschitz収束に関する非可分性についての研究を、京都大学の山崎陽平氏と行った. この点でも当初の計画以上に進展したと言える. 2. について。RCD*(K,N)空間がmGH収束している状況で, Brown運動の収束を調べた. 計画当初は, RCD*(K,N)空間という設定で考えるつもりはなかったが, 研究を進めて行く中で, このような設定で小倉氏によるRiemann多様体上のBrown運動の収束の結果を拡張出来る事に気がついた. この研究自体が当初は予定していなかったものである. この意味で予想以上の結果と言える.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針は以下である: 目的: 測度距離空間上 (特に RCD*(K, N ) 又は RCD(K, ∞) 空間) の Markov 過程の性質の研究.
近年, 測度距離空間上の解析学の発展は目覚ましい. その中でも, 注目されているのがErbar-Kuwada-Sturmによって導入された RCD*(K, N ) 空間, 又は Ambrosio-Gigli-Savareによって導入された RCD(K, ∞) 空間 (次元の有限性は仮定しない) である. これらは, Riemann 多様体上の次元 N 以下, Ricci 曲率 K 以上, という概念を測度距離空間の枠組で一般化した概念であり, 測度距離空間の研究に, 微分幾何的な観点を導入した点で画期的である. これによって, 測度距離空間上の Markov 過程を微分幾何的な観点から研究する道が 開けた. 例えば, Riemann 多様体上の Markov 過程の挙動は, Riemann 多様体の幾何学的性質と密接に関係しており, 曲率や体積増大度の情報から, 熱核の挙動や, 再帰性, 過渡性, 保存性等が特徴付けられることは, こ れまでの研究から良く知られている. これらの研究は, 上述の微分幾何的な概念の導入により, 測度距離空間上の Markov 過程の研究に一般化出来る事が予想される. 即ち「測度距離空間上に導入された微分幾何学的な情報と, Markov 過程の性質がどのように関係しているか」 という問題は, Riemann 多様体上の Markov 過程の研究を一 般的な形で含むものであり, また, 確率論だ;けでなく, 幾何や解析の問題も内包する非常に重要な問題であり, 研究する意義は大きい.
|