研究実績の概要 |
元来、ヒトは病原体の感染に対し、マクロファージおよび樹状細胞などにより認識・貪食・抗原提示することにより、T細胞およびB細胞を活性化し、病原体の排除を行う免疫機構を有している。しかし、HIV-1感染においては、HIV-1アクセサリータンパク質の1つであるNefによりCD4やMHC分子などの膜上発現を抑制し、免疫細胞による感染認識を破綻させることが示されている(Fackier OT et al., Immunity, 2002)。このようなHIV-1による獲得免疫に対する免疫逃避機構により潜伏感染が成立しているが、HIV-1潜伏感染が成立する分子機構としては自然免疫に着目した検討は全くなされていない。これまでの研究により我々は、HIV-1潜伏感染により、自然免疫抑制機構の重要分子の1つであるTLRのリガンド応答が著しく抑制され、TLR下流のシグナル分子であるIκBαタンパク質およびCOMMD(Murr1)の発現が増加していることを明らかにした。しかし、HIV-1潜伏感染株でのIκBαタンパク質の発現増加および安定性の向上における分子機構の解明、さらにHIV-1潜伏感染成立における分子機構の解明には至っておらず不明な点が多い。 本研究では、潜伏感染におけるCOMMD1の機能および発現制御の検討を行った。始めに、潜伏感染細胞株(U1, OM10.1, J-Lat)にsi-COMMD1を処理し、HIV-1の再活性化への影響を検討した。その結果、COMMD1ノックダウンによりHIV-1再活性化が誘導された。以前に報告されたIκBαノックダウンと比較すると、この誘導は弱い効果ではあった。さらに、HIV-1抑制因子として報告されている遺伝子のmRNA発現の比較を潜伏感染株と親株間で行った。その結果、数種の遺伝子において潜伏感染株での発現が誘導されていることが明らかになった。
|