研究実績の概要 |
申請者は,誰もが体験する一般的なネガティブ感情とされている悲しみ感情の中にも,悲しみ喚起時の生理反応パターンの一貫しない結果(Cacioppo, Bernston, Larsen, Poehlmann, & Ito, 2000)や2種類の機能の存在から,質的に異なる悲しみが存在すると考えている。本研究では,悲しみの質の違いを主観・生理・行動の3側面の反応パターンから多角的に捉えることによって明らかにすることを目的としている。異なる質の悲しみの存在が明らかになれば,悲しみを1つの典型的な感情として捉えてきた従来の研究結果に対して,重要な知見を提供することになると考えられる。 平成26年度の研究業績の概要としては,2014年10月から12月にかけて,イメージ法を用いて2種類の悲しみ喚起場面により喚起された悲しみがもたらす生理反応変化について検討する実験を行った。その結果,生理指標に関して死別条件は統制条件よりも皮膚伝導水準(SCL)の値が高く,またイメージ時に拡張期血圧(DBP)の上昇が認められた。このことから,死別による悲しみは交感神経系を亢進する反応をもたらすと考えられる。目標条件においては,DBPの上昇やSCLの明確な違いは認められなかったことから,相対的ではあるが,死別により喚起された悲しみと目標達成失敗による悲しみには,生理反応における違いがある可能性が示唆された。また,主観指標に関して,死別の悲しみは目標達成失敗による悲しみよりも「涙がでそう」といった涙を表現する言葉で表される特徴を持つ悲しみであることが明らかになった。この結果は,従来は1つの感情として捉えられていた悲しみという感情を異なる場面によって喚起した時,異なる生理反応変化をもたらす可能性を示す重要な知見であると考えられる。
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