研究実績の概要 |
申請者は、誰もが体験する一般的なネガティブ感情とされている悲しみ感情の中にも、悲しみ喚起時の生理反応パターンの一貫しない結果(Cacioppo, Bernston, Larsen, Poehlmann, & Ito, 2000)や2種類の機能の存在から、質的に異なる種類の異なる悲しみが存在すると考えている。本研究では、悲しみの種類の違いを主観・生理といった多数の側面における反応パターンから多角的に捉えることによって明らかにすることを目的としている。異なる種類の悲しみの存在が明らかになれば,悲しみを1つの典型的な感情として捉えてきた従来の研究結果に対して,重要な知見を提供することになると考えられる。 平成27年度の研究業績の概要としては、2015年6月から11月にかけて、イメージ法を用いて2種類の悲しみ喚起場面により喚起された悲しみがもたらす生理反応変化について検討した。その結果、生理指標に関して、皮膚伝導水準反応のイメージ課題後の変化に3条件ごとに違う傾向が示された。このような違いは、感情価および悲しみの種類の違いによって生じた反応であると解釈できるだろう。ゆえに、死別により喚起された悲しみと目標達成失敗による悲しみには、生理反応における違いがある可能性が示唆された。 また、主観指標に関して、死別の悲しみは目標達成失敗による悲しみよりも「涙がでそう」といった涙を表現する言葉で表される特徴を持つ悲しみであることが明らかになった。これは、主観的側面において悲しみの特徴を検討した研究(白井・鈴木,2015)および前年度の生理反応を検討した研究(白井・鈴木,印刷中)の結果と一致するものである。本研究により見いだされた知見は、従来は1つの感情として捉えられていた悲しみという感情を異なる場面によって喚起した時、異なる生理反応変化をもたらす可能性を示す重要なものであると考えられる。
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