研究実績の概要 |
ハシリハリアリ属の試料収集、生態観察のため沖縄本島で野外調査を行った。その試料とこれまで蓄積してきた試料を用いて、日本産(奄美大島、徳之島、沖縄本島)と台湾産の標本を比較した結果、日本産と台湾産のハシリハリアリは別種であることが判明した。 また、ヨーロッパの7か国(ドイツ、オーストリア、イタリア、スイス、フランス、ベルギー、イギリス)・9か所の自然史博物館を訪れ、乾燥標本の調査を行い、一部を借用した。これにより、本属のほとんどの種のタイプ標本を見ることができた他、過去の分布記録の報告論文に使われた標本の多くを検することができた。 実体顕微鏡を用いて収集した標本の外部形態を観察し、分類学的再検討を行ったところ、東洋区から100未記載種を含む173種を確認した。この種数は研究を実施する以前に知られていた種数の約3倍にあたり、東洋区は非常に種多様性の高い地域であることが明らかになった。 また、これまでに取集した分子解析用試料を用いて、70 サンプル分のミトコンドリア遺伝子と核遺伝子の4領域 (COI, Cytb, 16SrDNA, wingless)を合わせた2,550bpの塩基配列を決定し、最尤法とベイズ法を用いて分子系統樹を作成した。両手法による系統関係は概ね一致し、大半の分岐において高い信頼度を持つ系統樹が作成された。系統解析の結果から、本属は2系統に大分されることが判明した。片方の系統は含まれる全ての種が東洋区に固有である。もう片方の系統は世界中に分布する系統であるが、その中から東洋区に固有の系統が生じていることがわかった。よって、本属内には東洋区に固有の系統が独立に2回生じているが判明した。また、東洋区固有の系統に含まれる種は、固有の形態的特徴と固有の生態的特徴を持つことも判明した。 上記の成果に関して、2回の国内学会大会と2回の国際会議において発表を行った。
|