2015年度の研究概要を以下で述べる。 まず沖縄にかんする課題については、戦後の米軍占領期におけるパインブーム時のみならず、終戦直後の与那国島での台湾との密貿易および現在の石垣島と台湾との交流についても、聞き取り調査と文献資料調査を実施した。密貿易時代については、中心的にかかわっていたのは与那国の島民ではなく台湾や日本本土からやって来た人々であったようである。密貿易時代の与那国町は経済的に潤っていたことから、町としては当時の夢をもう一度、という思いがあり沖縄・八重山地区の中でも最初に台湾と姉妹都市締結をしているということであった(1982年、花蓮市と)。また現在の石垣台湾間交流について沖縄県産業振興公社台北事務所にて石垣市台北駐在員の小笹俊太郎氏に聞き取りをおこなったところ、戦前の移住者とのネットワークではなく新規の移住者もみられるほか、小中高校生の民間交流が活発であることや台湾からのクルーズ船での観光客が激増していることが同時に見られるとのことであった。 以上のように台湾との交流をパイン産業とは別の角度からも見ていくことにより、沖縄における「台湾人」という主体性がいかに国や自治体、市場、台湾移民や地元民など当事者の力が絡まりあって構築されてきたのかを複合的に明らかにした。 シンガポールにかんする課題については、2015年はシンガポール建国50年という節目の年であることに絡みプラナカンはシンガポールのパイオニアであるという語りが生み出されるプロセスを、プラナカン博物館の企画展示をはじめ各種出版物などから明らかにした。 フィリピンにかんする課題については、菲華濱華裔青年聯合會は海外の華人系団体とのネットワークの構築のみならず、国内におけるメスティソの地位向上および社会統合もすすめており、いわば両義的な動きを促進していることが同會への聞き取りおよび資料調査から明らかになった。
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