前年度の実験から、ダリアに感染するタバコ条斑ウイルス(TSV)は黒色系品種の花弁で生じるフラボン合成酵素遺伝子(DvFNS)の転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を抑制し、色素蓄積量を変化させ、花色の赤紫色化を引き起こすことが示された。また、TSVは黒白複色系品種において花弁先端純白部形成に関与するカルコン合成酵素遺伝子(DvCHS)のPTGSを抑制し、純白部を消失させることも示された。これらの結果を受け、本年度は以下の調査を実施した。 (1)TSVの塩基配列の調査:ダリアに感染するTSVの移行タンパク、外被タンパクおよび2bタンパクをコードする塩基配列を解析したところ、登録済みのTSV配列との相同性は90%前後であった。よって、ダリアから検出されたTSVは新系統であると考えられ、TSVdahliaと命名した。TSVdahliaのいずれの配列がサイレンシング抑制に関与しているかについては現在調査中である。 (2)赤白複色系‘結納’の花弁先端純白部がTSVdahlia感染により消失しない原因の調査:赤白複色系‘結納’ではTSVdahlia感染によりDvCHSのPTGSが抑制されることなく、純白部は消失しない。この理由として‘結納’のTSVdahliaに対する抵抗性が高い可能性を考え、花弁のTSVdahlia濃度を調査した結果、‘結納’花弁のTSVdahlia濃度は他品種の感染個体と比較して低い傾向がみられた。このことから、‘結納’は花弁へのTSVdahliaの侵入あるいは増殖に対する抵抗性が高いために、PTGSが抑制されず花色が変化しない可能性が考えられた。 TSVdahliaはダリアの花色を制御する新たなPTGSの探索に利用できるだけでなく、感染させても花色が変化しない黒色あるいは複色系品種を解析することで、ウイルスへの抵抗性機構を解明することにも利用できるかもしれない。
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