研究課題/領域番号 |
14J02005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金 ナレ 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | リプログラミング / 多能性幹細胞 / 分化 / 動物種間の差異 |
研究実績の概要 |
農学分野において、さまざまな細胞に分化することのできる多能性幹細胞は、卵や精子といった生殖細胞へと分化誘導することのできる可能性があることから、基礎研究だけでなく、希少動物の遺伝資源の保存や遺伝子組み換え動物の作出に役立つことが考えられる。特に、培養の容易な体細胞を初期化(リプログラミング)して得られる人工多能性幹細胞(iPS細胞)の技術は、絶滅危惧種など、生殖細胞を取り出すことが容易でない動物種に適用できることが期待される。しかし、これまでにマウス以外における動物種において、生殖細胞へも寄与可能なiPS細胞の樹立が困難であることが知られており、なかでも鳥類の体細胞からiPS細胞を得ることは極めて難しいとされている。本研究においては、iPS細胞の樹立において、培養液中のpHを厳密に管理したところ、もっとも多くリプログラミングされた細胞コロニーを得られるpHが、ニワトリとマウスで異なることを発見した。さらにブタ、ウシに関しても適正なpHが存在することが分かった。しかし、ニワトリで得られたコロニーは、長期間維持することはできなかった。ニワトリ多能性幹細胞の維持には、さらなる機構の解明が必要と考えられる。 以上の結果から、pHに対応する分子機構に動物種による違いが存在し、体細胞のリプログラミングに影響していると考え、マウスを用いて、体細胞のリプログラミング、多能性幹細胞の維持、分化にどのような影響を及ぼしているのかを探った。リプログラミングに対しては、多能性獲得の指標を確認したところ、pHが低いほどリプログラミングのタイミングが遅延することが分かった。また、胚性幹細胞(ES細胞)に対しては、分化初期におけるpHの影響を調べるため、実験系の確立を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニワトリとマウスについての体細胞のリプログラミングにおける差異に関する研究は、研究実績の概要に記載の内容で、26年度において、国際学会(キーストンシンポジア、アメリカ、2015年3月)において発表を行った。また、主にマウスを用いた体細胞のリプログラミングに対するpHの影響は、26年度中に6月に開催予定の国際学会(ISSCR学会、スウェーデン)に抄録が受理され、発表を行う予定である。現在、これらの成果を論文として取りまとめている段階である。胚性幹細胞(ES細胞)を用いた細胞分化に関する実験系は、いくつかの遺伝子を指標に確立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ニワトリ、マウスの体細胞のリプログラミングに関する研究は、RNA発現の網羅的な解析(RNA-seq)の実験を追加して論文を投稿する予定である。また、これらの解析から、pHに影響される遺伝子を絞り込み、動物種間でどのような違いがあるのかを検討する。 マウスのES細胞を用いた細胞分化に対するpHの影響に関する実験は、数種の遺伝子を用いて実験を確立した。今後、より詳細な遺伝子解析を行い、pHが分化にも影響していることを証明する。
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