研究課題/領域番号 |
14J02016
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
米田 耕三 筑波大学, 大学院数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | タンパク質間相互作用 / アクチン / チューブリン / 結合位置解析 / ピレン / 新規分子プローブ |
研究実績の概要 |
私はこれまでに海洋天然物アプリロニンAが細胞骨格タンパク質のアクチンとチューブリンのタンパク質間相互作用を誘導することを明らかにした。当該年度はその一般性の確認と、その結合様式の解明のための新規プローブの開発に着手した。 まずアプリロニンA以外のアクチン脱重合剤としてラトランクリンA、サイトカラシンD、ミカロライド類に着目し、それぞれにおいて、細胞分裂の際にチューブリンが構成する紡錘体に対する効果を調べた結果、ミカロライドCが異常な紡錘体形成を誘導した。しかし精製したタンパク質を用いたin vitroの試験でミカロライド類はチューブリンに作用しなかったため、この化合物の標的はチューブリン以外の紡錘体形成に重要なタンパク質であると考えた。そのタンパク質探索のため、ビオチンプローブを合成し、生細胞から標的タンパク質を探索した結果、HSP90が精製された。現在HSP90と紡錘体形成異常との関係について調べている。 またアプリロニンA-アクチン-チューブリン三元複合体の結合様式の解明に着手した。まずX線解析のための結晶化を試みた。しかし200種類の結晶化バッファーを検討したが、結晶を得ることはできなかった。そこで、分子プローブを用いる方法に着目した。この方法はタンパク質内のリガンド結合位置近傍のペプチド構造を検出できる。しかしそのペプチド断片を精製する必要があり、回収量が低下してしまう。実際、共同研究者がこの解析を行っているが、まだ達成できていない。そこで私は精製しない方法の確立を目指し、ラベル化したペプチドを質量分析で選択的に検出できる機能性官能基の開発を行っている。5回の分子設計から、アミドピレン構造が解析に有用であることを見出した。今後はまず、その分子を用いて、結合位置が既知のアクチンとの解析を行い、その結果の妥当性を評価する。その後チューブリンとの結合位置を解明する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アプリロニンAが誘導する新規のタンパク質間作用の特異性の確認は実行できた。当初の予定通り、代表的なアクチン結合分子であるラトランクリンA、サイトカラシンD、ミカロライド類いずれもアクチン-チューブリンのタンパク質間相互作用を誘導しなかった。しかしそれに伴い、ミカロライドCが新たなタンパク質間相互作用を誘導する可能性が示唆されており、分子生物学的に興味深い知見を得ることができたと感じている。 アプリロニンA-アクチン-チューブリンの三元複合体の解析において、複合体の結晶化の見込みが全くなかったことは予想外であった。しかし現在その代替案として分子プローブを用いた手法を試みており、その中で、既存の方法で問題がある精製過程を省略できる新しい手法の開発を行っている。現在までにアミドピレン基を検出基として導入することで結合位置解析に有効と思われるプローブを合成できているため、三元複合体の結合位置解析も遠からず達成できると考えられる。 当初の予定では上記の方法で明らかにした結合様式を元に、アプリロニンAの構造を簡略化した分子を設計する予定で、合成容易なアクチン-チューブリンのタンパク質間相互作用誘導分子を合成するはずだったが、まだ行えていない。そのため全体的な計画から考えると現在の進行状況はやや遅れていると考えている。しかし共同研究者が既に部分的な合成を始めているため、結合様式を解明できれば、類縁体合成には多くの時間はかからないと考えており、後1年で、予定通り新規のタンパク質間相互作用を誘導するリガンドを創出できると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はこれまでに合成した結合位置解析に特化したアプリロニンAの分子プローブに対して、まずその機能製を評価するためにアクチンとの結合位置を解析する。両者の結合位置は既にX線結晶構造解析で明らかになっている。そのため、その2つの結果を比較することで今回開発したピレンプローブの有用性を評価できる。その後はピレンプローブを用いてチューブリンとの結合位置を明らかにする。そしてその結果をもとにドッキングシミュレーションなどの計算科学的手法で詳細な結合位置を明らかにする。 この結合様式の情報はアプリロニンAの構造最適化を可能にするため、簡略化した構造を持つアプリロニンA人口類縁体を合成する。その類縁体に対して当初の予定通り、アクチン、チューブリンに対する解離定数をアプリロニンAと比較する。これにはBiacoreを用いる。これは表面プラズモン共鳴の変化を観測することで解離定数を算出できる。Biacoreは相互作用を調べる一方を専用のセンサーチップに固定する必要があるが、アプリロニンAにおいては所属する研究室で合成したアプリロニンAビオチン誘導体を用いることができると考えている。アプリロニンAのビオチン体をチップに固定し、アクチン、チューブリンとの相互作用の際に変化する表面プラズモン共鳴を観測することで、解離定数を算出する。人口類縁体においても化学修飾によりセンサーチップに固定し、アクチン、チューブリンとの相互作用の際に変化する表面プラズモン共鳴を観測することで、解離定数を算出する。そして人口類縁体と天然物アプリロニンAの値を比較し、相互作用の強さが同等であることを確認する。 以上の結果を取りまとめ、国内外の学会で発表を行いたいと考えている。
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