本研究で私は、抗腫瘍性物質アプリロニンAの標的タンパク質との結合様式の解明を目指した。アプリロニンAはアクチン複合体としてチューブリンに作用することが知られているが、分子レベルでの結合位置はまだ明らかになっていない。そこで私は新しいタイプの分子プローブを用いる手法を提案した。反応性官能基をリガンド(アプリロニンA)に導入したアミドピレンプローブである。まずこのプローブと標的タンパク質を反応させ、リガンド結合位置近傍のアミノ酸残基をアミドピレンでラベル化する。得られた複合体を酵素消化した後、紫外線レーザーを用いた質量分析(LA-LDI MS)で解析することで、ラベル化されたペプチド断片が選択的に検出され、結合位置が決定されると期待される。本研究では反応性官能基としてN-ヒドロキシスクシンイミドエステル構造を導入したアプリロニンAのアミドピレンプローブを用いることで、標的タンパク質のアクチンを定量的にラベル化し、その結合位置をLA-LDI MS法で決定した。すなわち、従来法で必要なラベル化ペプチドの精製過程を除くことができたため、より少ない操作で結合位置を解析することができた。しかしLA-LDI MSの測定において、プローブのリンカー部分でのフラグメント化が観測され、目的のラベル化ペプチドの検出感度が著しく低下した。この問題はLA-LDI MSで開裂しないプローブを設計することで克服できると期待される。このアミドピレンプローブの構造最適化により、さらなる高効率・短時間の結合位置解析が可能になると考えられる。また本手法は様々な生物活性リガンドにも適応できるため、アミドピレンプローブの最適化は創薬研究に大きく貢献できると期待される。そして本手法を用いて、アプリロニンAとチューブリンの結合位置を明らかにし、アプリロニンAの創薬研究を発展させたいと考えている。
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