研究課題/領域番号 |
14J02019
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
玉手 亮多 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | ブロック共重合体 / ベシクル / 化学振動反応 / 人工細胞 / 散逸構造 |
研究実績の概要 |
化学振動反応であるBelousov-Zhabotinsky反応(BZ反応)触媒を側鎖に持つ温度応答性のジブロック共重合体を可逆的不可開裂連鎖移動(RAFT)重合により合成した。親水性部位と温度応答性部位のブロック比を制御することで、凝集温度以上の温度で平衡構造としてベシクル構造を形成するジブロック共重合体の合成に成功した。この新規ジブロック共重合体は、側鎖の触媒の酸化還元状態に依存してベシクル形成温度が異なる。これを利用することで、BZ反応に伴う酸化還元状態の変化に駆動された自律的なベシクル構造の形成・崩壊振動を生起し、観察することに成功した。 また動的挙動を示す人工細胞モデルとして、自律的な体積振動もしくは形状振動を行う架橋ベシクル構造を創成することに成功した。このために、BZ反応触媒に加え、架橋可能な二重結合部位を側鎖に持つ温度応答性ジブロック共重合体を架橋前駆体としてRAFT共重合した。光開始剤存在下でベシクル構造を形成し、UV照射により架橋ベシクル構造を得た。このベシクルは架橋の効果により凝集温度以下でも一つ一つの高分子鎖に溶解しない代わりに、ベシクル膜の水和に伴う膨潤が起こる。また温度に対するベシクルの膨潤度の依存性は、触媒の酸化還元状態に依存して異なる。これを利用することで、架橋ベシクルはBZ反応に駆動された周期的な体積振動を示した。更に興味深いことに、周期的な座屈を繰り返す形状振動を示す架橋ベシクルも見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は自励振動ブロック共重合体を作成し、ブロック比等の分子設計による平衡構造の制御、及び酸化還元状態に依存した温度依存性の変化を確認することを目標としていた。しかしながら本年度は当初の予定を越えて、自励振動ブロック共重合体の合成及び平衡構造の評価のみならず、ユニマー-ベシクル間の動的な自励振動現象を生起することに成功した。 またそれに加えてベシクルの架橋を行うことで、人工細胞のモデルとして自律的に体積・形状を変化する架橋ベシクルを創成することが出来た。細胞膜が示す動的挙動を模倣する試みは今までほとんど行われていないため、このようなバイオミメティクスの観点からも本研究は新規かつ価値のあるものであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を機能性材料として応用するための課題の一つとしては、BZ反応が強酸下で成り立つ反応であるため生体内での使用が制限される点がある。よって今後はBZ反応をベシクル内に内包する、温和なプロトンソースを用いるなど、生理条件下でも振動現象を発現できるベシクル構造を創成することを試みる予定である。一方で細胞膜の振動現象においては、細胞膜は化学振動反応を利用するのではなく、化学反応と膜の収縮運動の複雑なカップリングによって振動現象を発現していると考えられている。そのため化学振動反応に依存しない、自己組織化と化学反応の相互作用を利用した時空間的な性質を有する機能性材料に関しても並行して研究を進めていきたいと考えている。
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