平成28年度の研究目的は、日本とスウェーデンの比較から見た望ましい福祉供給スキームの条件を、福祉供給主体への聴き取り調査から帰納的に抽出することであった。今年度の具体的な内容については下記に記している。そして、平成26~28年度の研究成果を集約して博士論文を執筆し、立命館大学より博士号(経済学)を授与された。今年度は新たに、障害福祉分野の福祉供給主体でもコ・プロダクションが観察されうるか、スウェーデンで調査を行うことで、本研究の今後の展開可能性を探った。 国内現地調査として、今年度は、医療・介護事業を行う医療福祉生活協同組合、福祉事業を行う消費生活協同組合において、意思決定過程・サービス供給過程における利用者とサービス提供者の協働の実態に焦点をおき、職員への聴き取りをおこなった。 国外現地調査では、スウェーデンのストックホルム県にて現地調査を行った。本調査では、平成26、27年度に引き続き、保育・幼児教育サービスを供給する協同組合、民間営利企業、基礎自治体といった様々な事業形態の就学前学校を訪問し、施設責任者と利用者(親)への聴き取り調査を実施した。そして今年度は新たに、障害福祉分野のコ・プロダクションの事例だと位置づけられる、18歳以上の精神障害者を対象としたスウェーデンの公的サービスであるパーソナル・オンブズマンに関して複数のコミューンで聴き取りを行った。また、ストックホルムコミューンにて、障害当事者と一定の時間をともにする市民のボランティアのしくみであるコンタクトパーソンの担当者への聴き取りを行った。これらの事例から、サービス生産の意思決定過程の中心にサービスの利用者を据える文脈でのコ・プロダクションは、スウェーデンの障害福祉分野、また公的機関のサービスにおいてもみられており、決して保育や医療分野のサードセクターが供給するサービスに固有なものではないと結論付けられた。
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