研究実績の概要 |
通常のシロアリのコロニーでは,雌雄の繁殖虫の片方もしくは両方がコロニーから消失した場合,欠けた性の繁殖虫を補うようにして幼型二次生殖虫(ネオテニック)を生産することで繁殖機能を回復する.沖縄島に生息する乾材シロアリの一種,コウシュンシロアリN. koshunensisでは生産されるネオテニックがオスのみであることや,この雄ネオテニックの繁殖能力に疑問がもたれるなど,他のシロアリと大きく異なる繁殖システムを持つことが示唆されていた.本研究ではコウシュンシロアリの繁殖および社会システムを解明することを目的としている. 平成28年度は既に得られているデータの解析と論文執筆をすすめ,日本学術振興会特別研究員PDである小林和也博士(京都大学大学院農学研究科昆虫生態学研究室)との共同研究により、本種が末端型オートミクシスによる単為生殖能力を保持していることを,遺伝子マーカーを用いて確認した.また,本種の単為生殖の孵化率は約50%程度と,単為生殖種と非単為生殖種の中間的な性質を示したことから,本種が生物の単為生殖能力進化の重要な材料生物となりえることを示した(Kobayashi and Miyaguni, Scientific Reports 2016). また、同博士との共同研究により,性特異的な遺伝マーカーを開発し,シロアリでは初となる一次性を解明した.本種では雄にバイアスした性投資を行っていることを明らかにするなど,性比理論においても有用な研究材料となる可能性が示された.また,日本学術振興会特別研究員DCである野崎友成氏(京都大学大学院農学研究科昆虫生態学研究室)および京都大学大学院農学研究科特定研究員である矢代敏久博士(昆虫生態学研究室)ともに,シロアリでは初となる,体の左右で性表現が異なるGynandromorph現象を発見するともに,その発生メカニズムについての仮説を提示した.
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