研究課題/領域番号 |
14J02037
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
冨樫 亮平 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 脂質ナノ粒子 / 腫瘍環境正常化 / 直線型DNA |
研究実績の概要 |
採用初年度に当たる平成26年度は「腫瘍への遺伝子送達による環境正常化」という本研究の遂行に不可欠な遺伝子送達システムの開発に焦点を当てた研究を行った。当研究室では独自の脂質ナノ粒子を用いた遺伝子送達システムの開発を行っており、本システムは腫瘍への遺伝子送達にも有用である事がこれまでにも示されているが、その一方で従来型粒子による遺伝子送達においては遺伝子発現活性・持続性向上のために複数回の連続投与を要するという課題が残されていた。この課題の解決のため、ナノ粒子調製法の根本的な見直しを含めた一連の条件検討により、評価の簡便な肝臓における遺伝子発現活性を指標としたナノ粒子調製条件及び脂質組成の最適化を行った。綿密な検討の結果、従来型粒子と比較して100倍以上高い遺伝子発現活性を示すナノ粒子の開発に成功した。 また、本研究のオリジナリティの1つである直線型DNA調製システムにおいてもその改良を進めている。本システムでは、大腸菌を用いた直線型DNA調製によって通常のプラスミドDNA抽出とほぼ同じ工程・所要時間で直線型DNAを調製することを可能としている。また、切断末端をヘアピン化する特殊な酵素を用いている点も重要なポイントであり、ヘアピン化によってDNA分解酵素に対する耐性を高めている。更に切断の際に、プラスミドDNAからの遺伝子発現を減弱する要因と考えられている大腸菌由来配列を切り離すことで、遺伝子発現持続性の向上を狙った。現在までに直線型DNAの調製には成功しており、得られた直線型DNAをマウス肝臓へハイドロダイナミクス法を用いて投与した際の遺伝子発現活性を測定したところ、同じ発現カセットを持つ環状プラスミドDNAと比較して優れた遺伝子発現持続性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は「腫瘍への遺伝子送達に応用可能なDNA送達システムの開発」と「腫瘍への遺伝子送達による環境正常化」の2段階の目標を掲げており、平成26年度はその一段階目である送達システムの改良を行ってきた。昨年度の研究の成果として遺伝子送達システムの大幅な性能向上に成功し、腫瘍への治療用遺伝子送達による環境正常化効果検証を行うためのツールを手に入れる事が出来た。今年度は予定通り、腫瘍への遺伝子送達実験を行い、腫瘍内環境(低酸素化、血管新生、免疫抑制等)の正常状態への矯正を目的とした一連の実験を行い、「腫瘍環境正常化療法」というコンセプトの正当性の立証に取り組む予定である。 直線型DNA調製システムにおいても、これまで明らかとしていた直線型DNAの優位性(小型粒子形成)の他に、遺伝子発現持続性の向上という新たな側面を見出す事が出来た。今年度は調製システムの更なる改良を行い、遺伝子発現活性および発現持続性の向上した次世代DNA搭載ナノ粒子の構築を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
改良型粒子を表面修飾による血中滞留性付加によって腫瘍標的型へと改変し、腫瘍への遺伝子送達機能の評価を行う。脂質組成や粒子径等の細かな調整によって腫瘍標的に適した粒子へと最適化した後は、治療用遺伝子を搭載し、その機能を評価する。載する治療用遺伝子の候補としては腫瘍環境正常化機能が報告されているHRG(Rolny C, Cancer Cell. 2011)や15-PGDH(Eruslanov E, J Immunol. 2009)といった因子の他、抗腫瘍免疫抑制シグナルを阻害する因子などをコードした遺伝子を用いる。上記の因子の腫瘍内での発現は免疫系細胞の浸潤やサブタイプの種類、低酸素領域の改善や血管正常化といった面に寄与すると考えられ、それらの効果の検証により環境正常化の有効性を立証していく。また直線型DNA調製における課題としては、目的DNA断片と共に生成される大腸菌由来配列を含む不要断片をいかにして除去するかという問題がある。現在はゲル抽出によって除いているが、今後は大腸菌内で不要断片を分解可能なシステムの組み込み等の更なる改良を重ね、ナノ粒子を用いたin vivo遺伝子送達に応用可能な質・量の担保を目指す。
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