研究課題
近年の水産業は、過度の漁獲による天然の資源量の減少や枯渇が問題になっている。そのため、種苗放流による資源量の回復や天然資源に頼らない完全養殖技術の確立が求められている。しかし、飼育下で人為的に成熟を促すこと(人為催熟)が難しい、あるいは人為催熟に成功したとしても孵化率・初期生残率(卵質)が悪いことなどが、種苗生産現場での問題点であり改善が望まれている。卵質を左右する要因の1つとして、胚発生や稚仔魚の栄養源となる卵黄が挙げられる。卵黄蛋白質は主にビテロジェニン(Vtg)と呼ばれる前駆物質に由来する。Vtgは肝臓で合成され、受容体を介したエンドサイトーシスによって卵母細胞内に取り込まれる。Vtgは複数のサブタイプが存在することが知られており、それらサブタイプの取り込みは複数のリポ蛋白質受容体によって調節されていると考えられる。本研究ではサケ科魚類のカットスロートトラウトを用いて卵黄形成に関与するリポ蛋白質受容体や受容体と共同で働く関連因子を同定することを目的としている。平成26年度は以下の成果を得た。他種でVtgの受容体として同定された低密度リポ蛋白質受容体関連蛋白13(Lrp13)を本種でも同定した。カットスロートトラウトのLrp13は油球期から卵母細胞膜周辺で観察され、卵黄形成期では卵膜や卵膜と顆粒膜細胞の間隙などでも観察された。また、Lrp13はVtgと結合する190~210 kDaのタンパク質であった。次に、本種卵巣の次世代シーケンサ解析から、これまで報告されていないリポ蛋白質受容体の配列が得られた。さらに、ビテロジェニンに親和性を持つ卵巣の膜画分をLC-MS/MSに供し、卵黄形成機構に関与する膜タンパク質を網羅的に解析した。
2: おおむね順調に進展している
H26年度は申請書に記載したVtgに結合するリポ蛋白質受容体の同定と卵黄形成機構に関わる遺伝子の網羅的解析を実施した。当初の予定通り、次世代シーケンサを用いて卵巣に発現する遺伝子の網羅的な配列決定を行い、新たなリポ蛋白質受容体の候補配列を取得することに成功した。加えて、ビテロジェニンに親和性を持つ卵巣の膜画分をLC-MS/MSに供して得られたスペクトル情報を基に卵黄形成機構に関与する膜タンパク質を網羅的に解析した。リポ蛋白質受容体の動態観察については免疫組織化学的手法により一部明らかにした。これらの実施内容は実施計画のほぼすべてを含んでいることから「おおむね順調に進展している」との判断に至った。
今後は次世代シーケンサやLC-MS/MSにより得られたデータを基に、Vtgの取り込みに関わるリポ蛋白質受容体やその関連蛋白質をクローニングし、卵黄形成に伴う発現変化をなどを明らかにする予定である。さらに、大腸菌発現系を用いた組み換えタンパク質を作製し、特異抗体の作製を行う。得られた抗体を用いて新規リポ蛋白質受容体の同定や組織分布、細胞培養系を用いた機能解析などを行う予定である。
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Gen Comp Endocrinol.
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10.1016/j.ygcen.2015.01.025