研究課題/領域番号 |
14J02073
|
研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
古山 貴文 同志社大学, 生命医科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
|
キーワード | 声道特性 / Go/NoGoオペラント条件付け |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、霊長類が他個体の音声を聞く際に、どのような音声情報を手がかりとして発声者を識別(音声個体識別)しているか、さらに音声個体識別をする際の脳内機構を、神経活動レベルで解明することである。ヒトおよびサルは自然環境下で他個体の音声のみで個体識別を行っており、この能力は社会を維持する上で極めて重要である。現在まで、サルを用いた個体識別のための神経機構の研究は、視覚による顔の知覚・認知を対象とした研究が主に行われてきた。しかし、特定個体の認識は視覚による顔認知や聴覚による音声認識などの、複数の感覚の記憶が合わさって成立するものである。本研究により、ヒトやサルが自然場面でおこなう個体識別の全容を解明できると考える。この結果は、携帯電話などの同時通信機やカーナビゲーションなどの工学技術の改良につながる知見も得られると考える。 当該年度では、被験体となる2匹のニホンザルに、被験体以外の2個体(サルA、サルB)の音声を聞かせ、Go/NoGoオペラント条件付けによる弁別訓練を行った。訓練完成後、音声再合成プログラムを用いてサルAの声帯振動成分とサルBの声帯振動成分を入れ替えた音声を作成した(サルAの声帯振動成分とサルBの声道特性成分を合成した音声とサルBの基本周波数成分とサルAの声道特性成分を合成した音声)。それらのテスト音声を再び被験体に聞かせ、反応を計測した。結果、訓練音声とテスト音声に対する反応時間を比較したところ、声道特性がサルAの音声と訓練音声のサルAの音声に対する反応時間との間と、声道特性がサルBの音声と訓練音声のサルBの音声に対する反応時間との間にも有意差が生じなかった。このことより、ニホンザルは音声のみで他個体を識別する際には声帯振動ではなく、声道特性をもとに他個体を識別している可能性が示唆され、ヒトが音声のみで個体識別する際に必要な音響パラメータと同様であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、霊長類が他個体の音声を聞く際に、どのような音声情報を手がかりとして発声者を識別(音声個体識別)しているか、さらに音声個体識別をする際の脳内機構を、神経活動レベルで解明することである。当該年度の計画では、行動実験にてヒトと同じ音声情報を用いて音声識別しているかを検討するとともに、fMRI計測で用いる音声刺激を決定することであった。 当該年度(平成26年度)に実行したことは、被験体となる2匹のニホンザルに、被験体以外の2個体(サルA、サルB)の音声を聞かせ、Go/NoGoオペラント条件付けによる弁別訓練を行った。訓練完成後、音声再合成プログラムを用いてサルAの声帯振動成分とサルBの声帯振動成分を入れ替えた音声を作成した(サルAの声帯振動成分とサルBの声道特性成分を合成した音声とサルBの声帯振動成分とサルAの声道特性成分を合成した音声)。それらのテスト音声を再び被験体に聞かせ、反応を計測した。その結果、ニホンザルもヒトと同様の音声情報(声道特性情報)を用いて発声者の識別していることを示唆するデータを得た。さらに、fMRI計測に用いる音声刺激(音声情報の変化量は一定であるが知覚が異なる音声刺激)の作成を行った。その音声刺激を被験体に提示し、作成した音声刺激が妥当かどうかを検証する。また、ヒトが音声個体識別を行う際に必要な脳部位の同定を行うために、ヒトを対象としたfMRI計測も同時に行っている。以上のことから、当該年度の計画をおおむね達成していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度(平成26年度)では、ニホンザルもヒトと同様の音響情報を用いて発声者の識別(音声個体識別)していることを示唆するデータを得た。来年度以降では、音声個体識別を行う際に必要な脳部位の同定を図るため、機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)を用いてヒトとニホンザルの脳活動の計測を行うことを計画している。行動実験によりfMRI法で用いる音声刺激の決定を行った後、その刺激を用いて音声個体識別に必要な脳部位の特定をヒトおよびニホンザルにて行う。特定を行った後、神経活動レベルでどのように起きているかを解明する予定である。 次年度(平成27年度)では、ニホンザルおよびヒトにおいて音声個体識別に必要な脳部位の特定を図る。計画している実験では、サルAの音声とサルBの音声の弁別訓練が完了しているニホンザルを用いる。fMRIではサルAの音声とサルBの音声を用いる。サルAの音声とサルBの音声を順番に聞かせた(違う個体が発声したと認識する)際の脳活動と、サルAの音声を2回連続で提示した(同じ個体が発声したと認識する)際の脳活動の差を計測する。この計測から、ニホンザルにおける音声個体識別に必要な脳部位が観測されると予想する。さらにヒトの脳活動と比較するため、ヒトを被験体としヒト音声を刺激としておこなう。しかし、これらの実験より計測される被験体の脳活動は、音声個体識別によってではなく、サルAとサルBの音声情報の違いのみに起因する可能性があげられる。解決策として、2個体間の音声連続体(サルAの音声からサルBの音声に段々変化していく音声)を用いる。この音声連続体を用いることで、音声情報の変化量は一定であるが、知覚が異なる音声を決定することが可能になる。行動実験により音声連続体に対する反応をヒトとニホンザルから計測する。その後、fMRIで用いる音声刺激と決定し、fMRI実験を行う予定である。
|