研究課題/領域番号 |
14J02085
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村田 康允 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 光回復 / CPD / 6-4PP / フォトリアーゼ / UV / 遺伝子発現 |
研究実績の概要 |
太陽光中の中波長の紫外線(UVB)は生物に様々な影響を及ぼす。最近の研究により、植食性のダニであるハダニ類に対してもUVBが生存率低下や産卵数減少等の様々な影響を及ぼす事が明らかとされた。特に、ナミハダニにおいてはUVBの生物影響が積算照射量に比例し、またUVB照射された個体の生存率が可視光照射によって回復する光回復効果と呼ばれる現象も確認されている。本研究ではこれらUVBによる損傷機構及びその修復機構の解明を目的として取り組んでいる。ハダニ類におけるUV損傷およびその修復等に関する生理機構が解明できれば、陸上の小型植食者のUV適応について大きな知見が得られると共に、農業害虫のUVBによる物理的防除を促す有用な知見となる可能性がある。 昨年度の研究ではナミハダニ幼虫におけるUVBによる死亡および光回復による生存率上昇とUV誘発DNA損傷(CPD・6-4PP)の関係について検証し、DNA損傷がハダニの死亡に大きく影響する可能性を示唆した。また、光回復効果の主要因であると考えられる光回復酵素(フォトリアーゼ)による反応(PER)および最も生物普遍的なDNA修復の一つであるヌクレオチド除去修復反応(NER)の寄与を検証するべく、フォトリアーゼ遺伝子、NERのコア因子XPA遺伝子の発現を検証し、光回復にはPERのみでなく、NERも寄与している可能性を見出した。 当該年度はこれら昨年度までの成果を受け、フォトリアーゼ遺伝子発現に関する追加検証、フォトリアーゼ遺伝子発現における日周リズムの検証および当初計画していたRNA-seqによるUVB損傷メカニズムの検証を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では、昨年度までの成果を論文にまとめ投稿作業などを行った。現在は内容についていくつか追加検証を行い、再投稿の準備を進めている。 さらに、当初計画していたRNA-seqによるUVBによる損傷メカニズムの検証に取り組んだ。ナミハダニ幼虫にUVBを照射した際、照射直後は形態・行動共に正常であるかのように見られたが、次ステージである第一静止期で表皮が収縮していたり、上手く剥がれずに脱皮失敗したりして死亡する個体が多数見られた。幼虫に照射したUVBによる損傷は第一静止期において顕在化する可能性が考えられる。一方、UV誘発DNA損傷はDNAの転写・複製を妨げ、第一静止期では次ステージへの体形成に関わる遺伝子発現の大幅な変動が予想される。これらから、DNA損傷が発育に必須の遺伝子発現を妨げる事がUVBによる死亡の主要因の一つである可能性を考え、UVB照射が第一静止期においてどのような遺伝子発現の変動をもたらすかを明らかとし、UVBによる損傷機構に迫った。孵化のタイミングをそろえたナミハダニ幼虫に一斉にUVBを照射し、照射後に第一静止期に発育した個体の遺伝子発現を、UVBカットフィルム外に置かれた対照区の第一静止期個体のそれとRNA-seqにより網羅的に比較解析した。その結果、幼虫期でのUVB照射により第一静止期において発現減少したものの内、アノテーションの付与により特定された遺伝子には、表皮形成に関するものが比較的多く見られ、死亡原因への関連を疑っている。 このように、当該年度では昨年度の成果の論文化は遅れているものの当初予定していたRNA-seqによる遺伝子発現の比較解析実験が進展しており、次年度の方針への足掛かりとなる成果が得られた事から「おおむね順調に進展している」との評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は昨年度のRNA-seqの結果を受け、さらに反復データを取り、第一静止期におけるUVBによる遺伝子発現の異常を見出し、死亡の原因との関連を考察する予定である。ナミハダニのUVによる生物影響は静止期や静止期からの脱皮時に顕在化する事がわかってきており、UVにより形態形成に関する遺伝子が特異的に損傷を受ける可能性も考えられる。そこで、孵化のタイミングをそろえたナミハダニ幼虫に一斉にUVBを照射し、照射後第一静止期に発育した個体の遺伝子発現を、UVBカットフィルム外に置かれた対照区の第一静止期個体のそれと網羅的に比較解析する。これによりUVB照射が第一静止期において、どのような遺伝子の発現変化を促すのかを明らかとし、UVBによる損傷機構に迫る。 さらに、これが明らかとなった際には、UVBによる発現異常が光回復処理によって正常な状態に回復するのかどうかを確かめる予定である。ナミハダニ幼虫においては、UVB照射後の可視光の有無により生存率が劇的に変化する。この場合でも、第一静止期特異的な死亡が数多く見られた。そこで検証で特定されたUVB死亡に関与すると考えられる遺伝子発現異常が、光回復処理によってどのように変化するか検証する。 今年は本研究課題における最終年度なので、昨年度までのデータと今年度予定しているデータを合わせて、まとめる予定である。研究の結論・目的としては、ナミハダニにおける光回復効果のメカニズムと農業現場におけるその応用について論じるつもりである。
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