太陽光中の中波長の紫外線(UVB)は生物に様々な影響を及ぼす。最近の研究により、植食性のダニであるハダニ類に対してもUVBが生存率低下や産卵数減少等の様々な影響を及ぼす事が明らかとされた。特に、ナミハダニにおいてはUVBの生物影響が積算照射量に比例し、またUVB照射された個体の生存率が可視光照射によって回復する光回復効果と呼ばれる現象も確認されている。 本研究ではこれらUVBによる損傷機構及びその修復機構の解明を目的として取り組んでいる。ハダニ類におけるUV損傷およびその修復等に関する生理機構が解明できれば、陸上の小型植食者のUV適応について大きな知見が得られると共に、農業害虫のUVBによる物理的防除を促す有用な知見となる可能性がある。 昨年までの研究によりナミハダニにおけるUVBの悪影響および光回復効果が実証されたが、幼虫にUVB照射した際、照射直後では、形態的・行動的に正常であるかのように見られたが、その後の第一静止期において多数の個体が発育停止や脱皮失敗によって死亡した。これに関して、次ステージへの体形成における重要期にUVB悪影響が顕著に生じたためと考えている。UVBによる悪影響は水生生物やバクテリアなどを含め、多数報告されているがUVBによる発育・発生の時期特異的な死亡は知られていない。そこで最終年度である今年度は幼虫におけるUVB照射による静止期特異的死亡の実証を試みた。幼虫期にUVBを照射した個体の約80%が第一静止期で死亡し、静止期特異的死亡が実証された。さらに、RNA-seqによる網羅的遺伝子発現状況の比較によりトランスクリプトームの観点から発育ステージ特異的死亡の要因を探った所、UVB照射により多くのキューティクルプロテイン遺伝子発現が減少した。これより、静止期特異的死亡について脱皮発育における外骨格・表皮の代謝崩壊が主な原因の一つである可能性が示唆された。
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