研究実績の概要 |
本研究では、脳内グリア細胞の担う情報処理が、神経細胞間の信号伝達網にどのように影響するのかを調べる。また、脳病態時における神経活動の破綻に、グリア細胞からの信号がどのように関与しているのかを明らかにする。これまでの研究において、小脳バーグマングリア細胞からグルタミン酸が放出され、神経細胞が興奮し、小脳に依存した行動や学習が変化することを明らかにした(Sasaki, Beppu et al., 2012)。また、このようなグリア細胞-神経細胞間の信号伝達は虚血時に過剰にはたらいていることを明らかにした(Beppu et al., 2014)。本研究においては、虚血ではなく健常な脳においても、グリア細胞からの信号が神経細胞の活動状態を左右しているのかを調べた。これまでシナプスでの神経伝達こそが、脳内情報処理の要であると考えられてきた。しかし本研究課題において、シナプス電流の一部はグリア細胞からのグルタミン酸成分であることを発見した。この結果は、グリア細胞からの信号がシナプスでの神経伝達を増強させていることを示している。このグリア細胞からのグルタミン酸放出のメカニズムを詳しく追及し、論文を投稿する準備を行っている。 当初の計画では、胎児期の虚血における神経毒性が、成熟期の虚血時と同様のメカニズムで起きているのかを調べる予定であったが、別府氏は、虚血だけにとどまらず、他の脳病態における、グリア信号の関与も明らかにしていきたいと考えるようになった。本研究では、虚血ほど極端な状況ではないが、神経細胞が過剰な興奮状態になるてんかん発作に着目した。てんかん発作時において、上記の研究で明らかにしたグリア細胞によるシナプス伝達増強作用が、てんかん発作時にもはたらいていることを予想し、研究を進めている。
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