研究課題/領域番号 |
14J02172
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西本 昌哉 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 半導体レーザ / フォトニック結晶 / 半導体結晶成長 |
研究実績の概要 |
活性層の近傍に2次元的に周期的な屈折率分布(2次元フォトニック結晶:2D-PC)を配置したフォトニック結晶面発光レーザ(PC-SELs)は、単一モードでの高出力動作のみならず、偏光およびビームパターンの制御、ビーム出射方向制御といった様々な機能の実現を可能とする、新しい半導体レーザとして注目を集めている。最近の数値解析により、ビーム形状、偏光特性、出射効率などのレーザ諸特性は、空孔の立体形状によって最適化し得ることが予見されているが、従来報告された作製手法であるウエハ融着法や有機金属気相成長法(MOCVD法)による埋め込みにおいては、空孔形状の3次元制御は実現困難であった。それに対して、我々が最近開発した分子線エピタキシー法により空孔を埋め込む手法(MBE空孔埋め込み法)を用いれば、分子線照射方向の最適調整によって、空孔形状の3次元制御が可能であると期待されている。そこで、我々はMBE空孔埋め込み法を用いてPC-SELsを作製し、空孔形状の3次元制御の効果を実証することを試みた。 まず、真円正方格子のフォトニック結晶構造を作製し、MBE空孔埋め込み法により、空孔が非対称な形状になるようにフォトニック結晶構造を埋め込み、フォトニック結晶レーザを作製した。その結果、単一モードでのレーザ発振に成功するとともに、埋め込み前の空孔形状が円柱状であるにもかかわらず、単峰の直線偏光ビームが出射されることを観測した。この要因としては、MBE埋め込み法によって空孔形状を3次元制御したことによるものであることを、3次元結合波解析により明らかにした。また、出射効率の点でも3次元形状の制御が有用であることも明らかとなった。 これらの結果は、高出力化や、様々な興味深い偏光・形状をもつビームの発生など、今後のフォトニック結晶レーザの進展にむけた有用な知見であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目の目標として①埋め込み成長によるデバイス作製法の構築、②大面積・高出力動作実現に向けた解析の2点を挙げていた。 研究開始当時、フォトニック結晶レーザのビーム形状、偏光、出射効率などの諸特性は、空孔の立体形状によって最適化し得ることが、3次元結合波理論により予見されていた。しかし、従来用いられていた作製方法(ウエハ融着法や有機金属気相成長法(MOCVD法))で実現可能な空孔の立体形状は限られていた。 そこで、本研究では気相成長法であるMOCVD法と異なり、真空蒸着による結晶成長法である分子線エピタキシー法(MBE法)に着目した。分子線の影になる部分は結晶成長しないことを利用して、空孔形状をより自在に制御できるのではないかと考えたためである。その結果、分子線照射方向の調整により空孔形状を3次元制御可能であることを実証した。 さらに、空孔形状の3次元制御の効果を確認するため、上記手法により意図的に空孔形状が傾いた円錐となるようにデバイスを作製し、発振スペクトルや、出射ビームの強度分布および偏光を測定した。その結果、単一モードでの発振に成功し、直線偏光かつ単峰の強度分布をもつビームが出射されることを確認した。また、3次元結合波理論の計算を行い、実験結果と照らし合わせ、空孔形状を3次元制御したことによって直線偏光かつ単峰の強度分布を持つビームが得られたことや出射効率が向上を明らかにした。 以上のように、1年目の目標である埋め込み成長によるデバイス作製法の構築はMBE空孔埋め込み法の開発により達成している。また、3次元結合波理論の計算により、空孔形状の3次元制御の有用性を明らかとしており、大面積・高出力動作に向けた解析も進んでいる。 以上の理由から本研究はおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、これまでに分子線エピタキシー法によりフォトニック結晶構造をデバイス内に埋め込む手法(MBE空孔埋め込み法)を開発し、その特徴として、フォトニック結晶の空孔の3次元形状を制御可能であるという特徴を見出した。また、本手法を用いて実際にフォトニック結晶レーザを作製し、空孔の3次元制御により出射されるビームの偏光や形状が変化することや、出射効率を向上可能であることを示し、MBE空孔埋め込み法の有用性を実証した。 今後は、フォトニック結晶レーザの単一モードによる高出力動作の実現に向けて、デバイスの最適構造の探索を進める。具体的には、フォトニック結晶構造の空孔の最適な形状の検討、電極形状の検討、熱やキャリアの分布を考慮した設計を進めていく。また、MBE空孔埋め込み法により成長される半導体結晶の品質向上に取り組む。現状の作製したデバイスの電流-電圧特性を評価したところ、従来の作製手法と比べて立ち上がり電圧が高く立ち上がり後の抵抗も高くなっていることが判明した。この原因としては、成長界面における酸化膜等による影響が考えられる。解決策としては、成長前に何らかの表面処理を施し、成長界面での酸化膜等の影響を低減することを考えている。具体的には硫化アンモニウムによる表面パッシベーションや、原子状水素によるクリーニングなどを検討している。 さらに、MBE空孔埋め込み法の特徴である空孔の3次元形状の制御を利用した、多様な偏光および形状をもったビームの生成といった新規機能の創出を目指していく。現在、フォトニック結晶から円偏光を直接出射可能な空孔形状の検討を進めており、数値計算においては円偏光が出射可能であることが明らかになりつつある。さらに検討を進め、実際にデバイスを作製し、円偏光の直接出射の実現を目指していく。
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