昨年度までの研究結果から、ラム波による閉口欠陥の評価実現に向けて、[1]き裂の開閉口がラム波の透過率に及ぼす影響の解明、および[2]ラム波対称モードと反対称モードの変位分布に着目した時間反転法(多重モードラム波時間反転法)の提案と検討、の2点を課題として挙げていた。以下、[1]および[2]に関する研究結果について述べる。 [1]十分開いたき裂に対応する欠陥として、スリットを有するアルミニウム合金平板におけるラム波を測定し、スリット長さとラム波透過率の関係を調べた。ラム波0次対称(S0)あるいは0次反対称(A0)モードを入射した結果、スリット長さの増加に伴い透過率が減少傾向を示した。さらに、疲労き裂を有する試験片に対して引張荷重を加えながらラム波の測定を行った。低周波数のS0モードを疲労き裂に入射すると引張荷重の増加に伴い透過率が減少する一方、A0モードを入射した場合では周波数によって透過率が複雑な挙動を示した。 [2]対称モードと反対称モードの変位分布に着目した送受信方法を適用することで、各モードの選択的な時間反転が可能となる手法を提案した。二次元平板中の表面スリットに低周波数のS0(A0)モードを入射すると、モード変換によってA0(S0)モードが発生した。このA0(S0)モードを時間反転すると、スリットの位置にラム波が集束することを示した。さらに、動弾性有限積分法に基づく三次元波動伝搬シミュレータを新たに構築した。計算コストが膨大であるため、科研費で購入した高性能計算機を用いて解析を行った。欠陥での散乱波を時間反転すると欠陥の位置に集束が見られたが、(a)入射波と同じモードに比べて(b)モード変換で生じる新たなモードを時間反転する方が、欠陥の位置以外における振幅の増大を抑制することができた。
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