研究課題
植物の無機イオンと水の吸収・蓄積の詳細なメカニズムを明らかにするために、膜輸送システム、根毛、および実験の過程で見出した新規タンパク質に注目し研究を進め、2014年度は主として下記の成果を得た。① 液胞膜亜鉛輸送体MTP1からみた細胞内・器官間亜鉛能動調節機構:シロイヌナズナの液胞膜亜鉛輸送体AtMTP1は細胞質の過剰な亜鉛を液胞内に輸送し隔離することで亜鉛過剰耐性に寄与している。AtMTP1がもつ細胞質側のヒスチジンに富んだループ(His-loop)に注目した。機能欠損株mtp1に、His-loop前半部分を欠落させた変異MTP1(His-half MTP1)を導入したところ、亜鉛欠乏条件下においてシュートが顕著に小さくなり、根の亜鉛含量が高く、シュートでの亜鉛含量が著しく少なくなっていた。つまり、His-loopは亜鉛欠乏時に亜鉛を液胞内に輸送・蓄積してしまわないためのブレーキ役として働いており、His-loopがないと欠乏時でも根の液胞内に亜鉛を輸送してしまい、シュートに十分な亜鉛が供給されないためにシュートの生育が悪くなることを明らかにした。この研究成果について論文発表した。② 新規な根毛特異的タンパク質RHPPの分子特性と生理機能の解明: 新規な無根毛株を用いたプロテオミクス解析により、リン酸欠乏時の根毛にのみ検出されたタンパク質RHPPに注目した。今年度は、まず機能欠失株の観察により、とくに根毛と種子に顕著な異常がみられることを見出した。③ 新規カルシウム結合タンパク質PCaP1の水分屈性に関する機能の解明: PCaP1は共有結合したミリストイル基によって細胞膜に局在化し、カルモジュリン等の情報伝達分子と結合する。当研究では、根での機能に焦点を当てて解析したところ、遺伝子欠失株pcap1では水分屈性に異常を示すことを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
亜鉛輸送体を中心に無機イオンの根から吸収・蓄積能力とその調節に焦点を当てた研究を進めた。植物体全般での亜鉛高濃度蓄積を想定して亜鉛輸送活性の高い変異型AtMTP1を導入したところ、高濃度亜鉛培地での耐性には影響が見られなかったが、亜鉛欠乏状態では、培地(土壌)から吸収したわずかな亜鉛を、根細胞の液胞が過大に亜鉛を蓄積することでシュートへの亜鉛供給が滞り、顕著な生育抑制を示した。予想外の結果であったが、元素分析を詳細に進めることで、合理的な解釈を発表することとなった。試験管内で得た知見を植物体で検証することができた点は、当初の予定以上の成果であった。また、新規な情報伝達分子と推定しているPCaP1の機能欠失株をていねいに観察することで、水分屈性に顕著な影響が生じていることを見出した。植物の水分屈性は重要な特性であり、その分子機構に関わる新たな因子としてPCaP1 を付け加えることができる見通しを得た。この点は、当初まったく予想していなかった点である。
それぞれの課題について、下記の内容の実験を進め、当初の目的へのステップを近づける。① 液胞膜亜鉛輸送体MTP1からみた細胞内・器官間亜鉛能動調節機構:このテーマについては、初年度で成果を得てまとめることができた。MTP1の分子構造上の特性を明らかにするため、精製したHis-loopタンパク質のNMR解析の可能性を検討する。② 新規な根毛特異的タンパク質RHPPの分子特性と生理機能の解明:その遺伝子欠失株では、根毛と種子に顕著な異常がみられたので、とくに根毛での機能メカニズム解明に挑戦する。具体的にはRHPP分子の細胞内局在、組織特異性、タンパク質特性、RHPP遺伝子の発現特性の解析を進める。遺伝子発現特性については、とくにリン酸欠乏条件での根毛伸長との関係性を明確にする必要があると考えている。細胞内局在性については、GFPあるいはmycタグを付加した人為的な分子を植物に導入し観察することで明確にする。一方、RHPP分子の生化学的な解析のためには、植物体からRHPPを精製する方法と、無細胞タンパク質合成系で合成する方法、植物培養細胞での強制発現という方法がある。いずれか、必要量のタンパク質を得る方法を検討し、分子構造についての光学的な解析、糖鎖付加あるいはリン酸化の可能性の検討を予定している。③ 新規カルシウム結合タンパク質PCaP1の水分屈性に関する機能の解明:遺伝子欠失株での水分屈性に異常がある、すなわち、水分屈性が弱くなる。この点を明確にするため、重力屈性との関連、浸透圧ストレスとの関連性も検討する。PCaP1はホスファチジルイノシトールリン酸との結合性を有するので、水分屈性を示す根の屈曲部位におけるPCaP1の組織分布とホスファチジルイノシトールリン酸の細胞内分布状況を形態的にていねいに解析する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Plant and Cell Physiology
巻: 56 ページ: 510-519
10. 1093/pcp/pcu 194
Journal of Experimental Botany
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